カプリコーン 1 目次
原題について
見どころ
あらすじ
火星旅行の難しさ
ロケット発射の物理学
オレンジの皮の内側
プロジェクトの政治的背景
直前のアクシデント
政府機関の大ぼら
「SF映画」
謀略の綻び
「幽霊」になった飛行士
燃え尽きた衛星
国家イデオロギーと死者と
TV記者の探索活動
宇宙飛行士たちの逃亡劇
宇宙飛行士を助けろ
爺さんは歴戦の勇士
幽霊が現れる
作品が問いかけるもの

◆国家イデオロギーと死者と◆

  大気圏突入の失敗(つまり飛行士たちの殉職)のニューズは、またたくまにアメリカ中を駆け巡った。
  火星着陸の成功という栄光と、地上への帰還の失敗という悲劇は、政治的には絶妙のコントラストをなして、政権のメッセイジやマスメディアの報道合戦をつうじて、飛行士たちの家族を打ちのめした。しかし、国家の威信を高めた英雄としての「輝かしい名誉」は、彼らに妻や子として心から悲しむ余地すら与えなかった。
  「英雄の妻」「英雄の子」としての姿を、政府もマスコミも、そして民衆も、当然のように期待していたのだ。
  つまりは、死者への追悼や哀悼すら政治的イヴェントになってしまったのだ。

  国家という独特の政治空間の内部では、たとえば戦争とか宇宙開発とか国家政策と直結した事件や事故での死者を「ごく当たり前に弔い哀悼すること」は、事実上不可能になっている。
  この日本でも、明治以降の戦争や対外進出などの国家事業の死者、とりわけ第2次世界戦争での戦死者への追悼や哀悼は、特異な国家イデオロギー装置(支配装置・宗教装置)としての靖国神社の存在問題と絡まって、異常な構造になっている。
  そこでは、死者を普通の家族感情や民衆感情として単純に悼むことは許されない。外側から眺める者にとっては、「英霊」や「英雄」として祀り上げられる虚しさ・悲惨さが目につくだけだ。

TV記者の探索活動

  一方、コールフィールド記者は、火星着陸が地上での撮影による映像だとすれば、宇宙飛行士たちはこの合州国のどこかにいる、と考えた。
  しかし、地上への帰還が失敗した以上、遠からず彼らは消される。あたかも、コールフィールド自身が追い詰められたように。とにかく、急いで、飛行士たちが演技した撮影場所を特定しなければならない。
  手がかりを捜すために、彼はブルベイカーの妻を2度にわたって訪ねた。とくに、衛星との会話のなかに、飛行士たちは自分たちの「恐ろしい運命」を伝えるために何かメッセイジを残さなかったか。
  2度目の訪問のとき、ブルベイカーの妻、ケイは、記憶を手繰ってみて浮かび上がった小さな疑問(不審)をコールフィールドに告げた。
  会話のなかで、ブルベイカーは家族旅行の思い出を妻に告げた。ところが、普段は几帳面で記憶力抜群の夫が、いまから思えば最後の家族旅行で訪れた場所の名前を間違えたというのだ。
  コールフィールドは、ケイの記憶を取り戻すように、そのときの様子を詳しく尋ねた。

  家族旅行でその日訪ねた場所は、巨大な映画セットが集積した撮影撮影専用の町(セット村)だった。
  やはり、宇宙中継画像が、撮影された映画なのだという事実を伝えたかったのだ。コールフィールドは、ブルベイカーのメッセイジを正確に読み取った。
  つまり、映画セットの場所、それもそのセッティングが極秘に進められ、部外者の誰にも知られることがない場所を捜せ、ということだ。

  コールフィールドはあれやこれや考えた挙げ句、閉鎖された軍の基地の可能性が一番大きいと判断した。関連資料を検索して、いくつもの候補のなかから、何年も前に閉鎖された陸軍の航空基地で、人里離れた砂漠に位置するものに目星をつけた。

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