・・・オマージュ 目次
ソ連社会の仕組みはなんだったのか
何が問題なのか
世界システム理論からの展望
ソ連における特異な資本主義
なぜ国家は存在するのか
特異な資本蓄積と資本の権力
経済計画と生産の無政府性
拡大再生産と消費との矛盾
世界経済の文脈で
ソ連型マルクシズムの欠陥
アポリアとしての資本主義
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旧ソ連に関する映画
レッドオクトーバーを追え
ヨーロッパの解放

世界経済の文脈で

  利潤獲得と資本蓄積をめぐる競争は世界市場の次元でもおこなわれている。
  世界経済では、個別企業(個別資本)どうしの競争や闘争と並んで、個別国民国家どうしのあいだの競争・闘争が展開されている。国家は自国に基盤を持つ資本グループを政治的に組織化し、このグループの世界市場での優位を確保するために奮闘する。経済的にも、政治的・軍事的にも。
  こうして、世界市場での競争は、国民資本( national capitals :資本の国民的ブロック)どうしのあいだの熾烈な競争となる。

  この意味では、世界市場での資本蓄積をめぐる国民(国家)としての優位や生き残りを賭けての闘争・競争が展開する以上、個別国家の内部で革命が起きて社会主義的イデオロギーを掲げる政権が生まれても、世界経済のレヴェルでは資本蓄積競争を避けるわけにはいかない。競争から脱落すれば、国民国家としての世界システムにおける地位が衰退・低落し、いずれレジームそのものが崩壊転換してしまうことになる。
  したがって、1国規模での「社会主義革命」をどこでいくど繰り返しても、社会システムとしての社会主義は生まれることができないし、資本主義的システムも変わりようがない。この意味では、世界経済が個別の国民国家に分割されている限り、社会主義革命はまったく不可能だということを意味する。
  世界経済の政治的・軍事的環境という点にだけ限って見ても、社会主義は「世界政府」が成立して、世界全体が一挙に転換しなければ、実現しないのである。つまりは、社会主義とは実質的には幻想であり、ユートピア(どこにも存在しえない世界)である。

  これが、世界システム論から見た場合の、動かしがたい原理である。
  よって、可能なオルタナティヴとしては、改革を繰り返して、どのように格差や敵対の少ない資本蓄積の仕組みを構築していくかを追求することだ。国家的所有と中央計画経済によっては、生産の無政府性ならびに階級格差や敵対が解消されることはない。
  とはいえ、世界的規模での資本蓄積にともなう所有と分配の敵対的形態、そして貧富の格差格差と利害紛争などの破壊的な効果は、世界経済が多数の国民国家に政治的・軍事的に分断されている限り、個別国家の社会政策的な再分配は――どれほど手厚かろうが――国境の内部にとどまるから、解消される可能性はありえないのだ。


■世界経済への「復帰」と国際競争の失敗■

  さて、第2次世界戦争後、1950年代にソ連は戦争による荒廃からの回復と工業成長の土台の建設を進めた。
  工業技術の土台づくりでは、旧ドイツ圏のうちソ連が占領した地帯での「デモンタージュ」による生産設備や研究施設・ノウハウの没収、エンジニアや科学者のソ連への移住の強要などの意味は大きかった。デモンタージュとは、「モンタージュ=合成」の反対語で「解体」という意味の用語で、ドイツにおける軍国主義の基盤――重化学・電気機械工業における独占資本(財閥)の支配――を解体しソ連国内に接収する政策だ。
  それは事実上、ナチスの征服への報復(損害求償)としての経済資産の収奪だった。
  これによって核兵器やICBMの開発の条件が固められたと見られる。このとき、ナチスの科学技術エリートたちがソ連政府に囲い込まれて、非常な厚遇を得た。彼らは、忠誠心の向け先を簡単に変えることで、高い報酬と先端研究の継続を保証されたのだ。さもなければ、ナチスに協力したということで戦争犯罪者として処罰・処刑されるしかなかった。

  さらに占領した東欧諸国で「社会主義化」を誘導して独特のソ連主導の国際レジームを形成し、「鉄のカーテン」の内部で戦争による荒廃から工業基盤を復興させた。しかし、西側諸国の経済成長で達成された現代型工業の建設には失敗した。
  アメリカのヘゲモニーのもとで構築された世界経済の成長パターンへのキャッチアップには、ついに挫折し続けた。国内の消費者のニーズさえも把握できない兵営型経済運営では、エレクトロニクス・テクノロジーやファインケミカル、精密機械工学の独自開発には失敗し、生産先端工業技術での西側先進諸国との競争で敗北し続けるのは、けだし当然だった。
  1960年代の前半、経済発展(資本蓄積)の壁にぶち当たったソ連は「経済改革」のための指針綱領を策定した。その目標は、最先端工学と工業での資本主義諸国との競争にキャッチアップすることだった。指針では、この競争で優位を確保しなければ、社会主義的レジームは深刻な危機に陥るであろうことが、言外に明白に表現されていた。

  この危機感は、ソ連の実験場としての「ドイツ民主共和国(東ドイツ)」の改革プログラムでずっと端的・明白に表明されていた。
  国家の中央計画に弾力性を持たせ、個別企業に経営の自立性・自主性を与える法制度の改革が進められた。とはいえ、経済運営の基本構造は変えることができなかった。ソ連の経済学者たちは、19世紀の資本主義的経済の基本的な仕組みさえ理解できていなかった。

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