この回では、子離れしない両親の「愛情」の押しつけで自分の人生の目標を見失って「極道に志願」した若者が、自分の才能とか人生の目標に目覚める物語だ。
そんな面倒な若者を猪瀬に押しつけてきたのは、またしても香具師の親分、大場義成だった。
一流大学受験に2度失敗した若者が、家出して――というよりも押しつけがましい両親から逃れ出て――大場親分のところに転がり込んできたのだという。世間知らずのボンボンが「もう一般社会では生きていけないので極道の世界に入る」と決心をしたらしい。
だが大場は若者の将来を自分なりに心配して、猪瀬家に預けて性根を叩き直してもらいたいと、若者を猪瀬直也のところに連れてきたのだ。お人好しの直也や元同僚の多田野が若者に考えを改めるよう説得した。
ところが、若者は直也や多田野たちが脅しても理屈で説得しても応じない。
そんなところに、両親がやって来た。
父親は一流保険会社の顧問弁護士なのだが、自意識=エリート意識過剰のいやなヤツ。で、母親は子どもにくどいほど「これでもかこれでもか」と愛情を注ぎ込む過保護――というよりも「子離れ」できない母親。
そんな彼ら両親が「よかれ」と持って「上から」加える愛情の重圧に、どうやら若者は押しひしがれて、自分の適性とか才能、人生の目標を模索する自由がないらしい。過保護に曾立ったので。若者は面と向かって親に反抗する自立性もないようだ。
若者は、真紀がもといた部屋に立てこもってしまった。
面々がオタオタしているときに真紀が帰ってきて、その部屋に入り込んでしまい、ずっと出てこなくなってしまった。直也や早季子、大場や多田野は心配する。
だが、しばらくしてから真紀は黒のドレスに着替えて出てきた。
そのドレスは、真紀が前よりもずいぶん痩せたのでサイズが合わなくなったのだが、そのドレスを短時間で仕立て直し、髪型や化粧もドレスにきちんと合わせてコーディネイトしてあった。真紀の美貌がますます冴えわたった。全員が感心した。
このファッション・コーディネイトをしたのは、あの若者だった。
じつは若者は以前から女性のファッション・コーディネイトに強い関心があって、そういう職業の道に進みたいと考えていたが、絵にかいたような学歴エリートコースが「子どもの幸せ」と決め込んで「愛情」を押しつける両親の前では口に出せなかったのだ。
若者は知的には相当に優秀らしいが、受験本番では、プレッシャーに負けてか、意図的にか、成績は芳しくなかった。要するに、「お受験エリート」の道には向いていなっかったのだ。
おそらくは、この騒動を経験した両親も、わが子の才能=適性を受け入れて、自分の道を進ませることになるのだろう。好きこそものの上手なれ、だ。