チェーザレとマキァヴェリ 目次
《イル・プリンチペ》
近代の黎明 イタリア
政治の醜悪な構造
チェーザレ・ボルジア
マンガによる表現の難しさ
「その時代」を描く難しさ
国民・国家がない時代
エスパーニャの状況
フランスの状況
物語の時代と場所
時代設定と人物配置
ローマと教皇庁
ボルジア家の功績
イタリアの地政学
ヨーロッパ世界経済の形成
そして、ピーサ市
有力諸王権の角逐
混沌渦の中心
ニッコロ・マキァヴェッリ
イタリア戦争
教皇アレクサンデル
イタリア戦争
軍隊の実情
傭兵たちの戦争
戦争の実相
余談 戦史の実相
川中島の戦いの実態
戦闘よりも交渉が物を言う
日本は契約社会

イタリアの地政学

  そして、このマンガの物語が始まる場所はピーサである。
  まさにこの時代のイタリアの運命=状況フォルトゥナを典型的に物語るような小都市ではないか。この都市集落は、まさにイタリアの有力諸都市や域外列強の力の対決ヴィルトゥの渦中にあって、争奪の対象あるいは駆け引きのチェスの駒として弄ばれていた。
  ピーサだけではない。イタリア全体が有力諸王権が覇権を争う舞台=チェスボードとなってしまったのだ。

  12世紀頃から、北イタリアの諸都市は都市国家として、すなわち、有力商人門閥が支配する自立した政治的・軍事的単位として振る舞い、周囲の弱小都市や農村を支配領域コンタードとして囲い込みながら、互いに勢力争いを展開し始めた。はじめその数は200以上にもおよんだという。
  だが、勢力争いのなかで力関係の優劣によって、多くの都市は、少数のより有力な都市国家に併合され統合されていった。あるいは、弱小都市のなかには、有力都市との「同盟」=「事実上の従属」を自ら取り結ぶものもあった。
  しかし、この同盟の相手先は、状況のわずかな変化で短期間に目まぐるしく変わっていった。

  そして15世紀。
  イタリア北部には、ヴェネツィア、ミラーノ、フィレンツェ、ジェーノヴァなどの少数の頭抜けて有力な都市国家が対抗し合いながら、その周囲の中小都市や農村への覇権をめぐって角逐していた。
  これらの諸都市は、互いに牽制し、移ろいやすい同盟による合従連衡を繰り返しながら、イタリア全体を統合できる力を備えた強大な勢力の出現を阻止し合ってきた。
  有力諸都市としては、主権を保持する独立の政治体=軍事単位としての地位を守るために、自らの上に立つ政治的・軍事的権力の出現を許すわけにはいかなかった。つまり、足の引っ張り合いだ。

  だから、たとえばヴェネツィアが頭抜けて強大になりそうな状況になれば、そのほかの多くの有力諸都市が同盟してヴェネツィアに対抗して、その力を削ぎ落としにかかった。
  なるほど、15世紀半ばまでは、イタリアの都市国家を圧倒できるような強大な政治体はヨーロッパには存在しなかった。
  ところが、15世紀の終わり近くになると、この争いのなかに、北イタリアの都市国家群とは比べ物にならないほど強大な権力が割り込んできた。エスパーニャ王権フランス王権、そして神聖ローマ皇帝位を獲得したオーストリア王権だ。

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