そして、このマンガの物語が始まる場所はピーサである。
まさにこの時代のイタリアの運命=状況を典型的に物語るような小都市ではないか。この都市集落は、まさにイタリアの有力諸都市や域外列強の力の対決の渦中にあって、争奪の対象あるいは駆け引きのチェスの駒として弄ばれていた。
ピーサだけではない。イタリア全体が有力諸王権が覇権を争う舞台=チェスボードとなってしまったのだ。
12世紀頃から、北イタリアの諸都市は都市国家として、すなわち、有力商人門閥が支配する自立した政治的・軍事的単位として振る舞い、周囲の弱小都市や農村を支配領域として囲い込みながら、互いに勢力争いを展開し始めた。はじめその数は200以上にもおよんだという。
だが、勢力争いのなかで力関係の優劣によって、多くの都市は、少数のより有力な都市国家に併合され統合されていった。あるいは、弱小都市のなかには、有力都市との「同盟」=「事実上の従属」を自ら取り結ぶものもあった。
しかし、この同盟の相手先は、状況のわずかな変化で短期間に目まぐるしく変わっていった。
そして15世紀。
イタリア北部には、ヴェネツィア、ミラーノ、フィレンツェ、ジェーノヴァなどの少数の頭抜けて有力な都市国家が対抗し合いながら、その周囲の中小都市や農村への覇権をめぐって角逐していた。
これらの諸都市は、互いに牽制し、移ろいやすい同盟による合従連衡を繰り返しながら、イタリア全体を統合できる力を備えた強大な勢力の出現を阻止し合ってきた。
有力諸都市としては、主権を保持する独立の政治体=軍事単位としての地位を守るために、自らの上に立つ政治的・軍事的権力の出現を許すわけにはいかなかった。つまり、足の引っ張り合いだ。
だから、たとえばヴェネツィアが頭抜けて強大になりそうな状況になれば、そのほかの多くの有力諸都市が同盟してヴェネツィアに対抗して、その力を削ぎ落としにかかった。
なるほど、15世紀半ばまでは、イタリアの都市国家を圧倒できるような強大な政治体はヨーロッパには存在しなかった。
ところが、15世紀の終わり近くになると、この争いのなかに、北イタリアの都市国家群とは比べ物にならないほど強大な権力が割り込んできた。エスパーニャ王権やフランス王権、そして神聖ローマ皇帝位を獲得したオーストリア王権だ。