パリは燃えているか 目次
原題と原作
見どころ
あらすじ
「パリは燃えているか」
パリは沸騰寸前
各戦線の状況
ヒトラーの狂気
フォン・コルティッツ将軍
生い立ちと軍歴
命令への疑念
連合軍最高司令部
ドゥゴール将軍
見栄と立ち回りのうまさ
ドゥゴール派の劣勢
フランス共産党
ソ連の影響
解放闘争への参加
スウェーデン総領事
衝突の火花
連合軍からの連絡
PCFの方針
蜂起の狼煙
ドイツ軍の反撃
罠にはまった反乱派
散発する市街戦
連絡員ガロワ
戦車砲と火炎瓶
休戦協定
止まない戦闘
パリの爆破準備
休戦のあいだの攻防
首相府をめざせ
ドイツ軍防御体制の混乱
連合軍の方針転換
反ナチス戦争の正当性
原作のおすすめ
兵站戦略の難しさ
降伏への段取り
ドゥゴールの奇策
強運のギャンブラー
自由フランス軍
ドイツ軍の降伏
パフォーマンス
偶然の連鎖で歴史はつくられる

降伏への段取り

  コルティッツは、連合軍がパリを攻略することになった状況を知ります。そこで、ドイツ軍が降伏せざるをえないような状況に進むように段取りしようとしました。
  彼は連合軍のパリへの進撃を促し、かつ容易にするため、正面の防備を意図的に希薄にし、連合軍の市街侵入で街並みに被害が出ないように自軍の戦力を慎重に配置したのです。

  そのうえ、この事情を知らせるために、スウェーデン総領事ノルトリング一行を連合軍に差し向けました。
  というよりは、連絡使節として、安全にドイツ軍の陣営を切り抜けられるように手配しました。部下の補佐官も協力しました。
  しかし結果として、この連絡使節は連合軍にうまく情報を伝えられなかったようです。

  それにしても、連合軍の陣地からパリまでの道のりは、延々200km以上も続きます。いくつもの道筋に戦車や装甲車、砲兵部隊、歩兵団の長い列が続きました。
  連合軍にとっては、パリ近郊に達してもなお、パリ解放までの道のりはまだずいぶん長かったのです。
  そのへんの事情は映画で観てください。
  原作をかなり脚色して映像化しているのですが、原作で語られる、じつに多くの要因をうまくわかりやすく単純化しています。
  熾烈な戦闘の様子は、映画《プライヴェイト・ライアン》が参考になると思います。

ドゥゴールの奇策

  さてさて、1944年8月半ば、ドゥゴールは北アフリカから、ジブラルタルに渡りました。
  シブラルタルは、18世紀はじめにここをエスパーニャ王国から奪い取って以来、ブリテン王国の軍事拠点となっています。このときは連合軍の基地となっていました。
  そこから、レジスタンス・解放委員会の闘争に連動する形で、パリに帰還するチャンスをうかがっていました。
  もとより連合軍最高司令部は、そのような形でのドゥゴールのパリ乗り込みを許すはずがありません。

  したがって、ドゥゴールとすれば、なんとか形を取り繕って北フランス(ノルマンディ)まで行き、あとは得意の「雲隠れ=隠密行動」でパリに潜り込むということになります。
  8月22日、ドゥゴールは連合国の許可を受けて、ノルマンディまで飛行機で飛びました。
  おそらく、ルマン市庁舎に設置された連合軍臨時司令部の視察とか表敬訪問とか、もっともらしい理由をつけてのことでしょう。
  実際にはドゥゴールは、連合軍司令部に乗り込み、パリ進撃を要請するつもりだったのです。それは、ムチャクチャな文字通りの「アクロバット飛行」でした。

■強運のギャンブラー■

  ところが、調達できた航空機はオンボロで、しかも燃料はギリギリでした。
  おまけに気象条件は悪く、燃費の悪い飛行になって、少ない燃料を途中で使い果たして不時着するか、墜落するかもしれない危ない賭けでした。
  雲が多く視界が悪かったので、飛ぶコースを誤ればドイツ軍の対空砲火の餌食になったかもしれません。あるいは、ノルマンディからはるか遠いところに着陸するしかなかったかもしれません。

  パイロットの腕の優秀さと幸運が味方しました。
  燃料が完全に尽きるまであとわずか2分間というきわどい状況で、飛行機はノルマンディの牧場に着陸できました。ドゥゴールは、はったり屋ではありますが、命がけのハッタリを仕かける天才なのかもしれません。
  ドゥゴール一行は、そこから車でルマンの司令部に赴きます。
  翌日、ドゥゴールは司令部に連合軍のパリ侵攻を要求しましたが、あえなく拒否されました。ドゥゴールが言うような形でのパリ侵攻は論外です。
  しかし拒絶の答えは、すでにドゥゴールの腹に織り込み済みでした。

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