翌週の審理までのあいだに、ギャルヴィンの身近に2つのできごとがあった。
1つは、ギャルヴィンがニューヨークでケイトリンと会って、法廷での証言について約束を取り付けたことだ。
彼女自身、証人として事実を訴え、長年の苦悩から解放されたいという強い願望・意思があったからだ。
もう1つは、ギャルヴィンの恋人として訴訟事務を手伝っていたローラがコンキャノンのスパイである事実が発覚したことだ。
ミッキーが偶然に、コンキャノン事務所から彼女に宛てた給与=報酬明細書を発見したのがきっかけだった。ギャルヴィンは、ケイトリンとの面会後、ニューヨークのバーで彼女と落ち合ったが、いきなり彼女の頬をぶった。そして、去っていった。
2つのできごとのいずれも、大きな組織の権力によって若い女性の人生が押し潰されてしまったという重い現実だった。
ローラ自身、一連の卑劣な行為を深く恥じていた。
このときも、ギャルヴィンに本当のことを打ち明けるためにニューヨークに行ったのだ。彼女は、弁護士として法廷闘争への情熱を回復したギャルヴィンの人間性に深く共感し、彼を愛し始めていた。
彼女自身も以前は弁護士として活躍していたが、夫と不和になり離婚にいたる騒ぎのなかで傷ついた。重い精神的ストレスのため彼女は仕事から何年も遠ざかっていた。
心の傷が癒えて、何とか法曹界の仕事で再起を期し、復帰の機会をうかがっていたが、キャリアの中断は足枷となった。そんなところに有力な法律事務所から声がかかった。
コンキャノンから、今回の訴訟をめぐる「内通・調査員」の仕事をもらったのだ。
一流の法律事務所で自分のキャリアの復活をめざすには、さしあたり、こんな汚れ仕事しかなかった。競争社会の厳しい現実だった。
だが、訴訟が進むうちに、有名大病院という巨大な組織が、これまた有力な法律事務所という権力組織と組んで、自らの重大な過失を隠蔽して、全身麻痺状態に陥った女性を見殺しにしようとしている事実が見えてきた。
ローラは一方で、孤立無援のなかで巨大な組織に立ち向かうギャルヴィンたちを毎日見つめていた。法律家、そして市民、人間として、どちらが好ましいかは一目瞭然だ。
ローラは、自分の巨大組織の手先となった捨て駒のような自分の役割に、心底嫌悪を抱くようになっていた。
競争社会で、つまり「つぶし合い」のなかで人が生き抜くのは、何と重いことだろう。だが、そのなかにも、自己の尊厳を守るために自分なりの選択があるのかもしれない。