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その数年後。
主人公のコンサールヴォが11歳くらい(10~12歳のどこか)で、父親のジャコモが40代半ばくらいか。ジャコモの妻(コンサールヴォの母)はマルゲリータ。温和で知性と気品がある。
コンサールヴォにはテレーザという美少女の妹がいる。この頃のはやりで、有力な修道院の付属寄宿女学校に行くことになった。
ウツェーダ家の執事長(家令)は、中年の独身男性、バルダッサーレで、ジャコモの言いなりに酷使されているが、なかなかに理知的でコンサールヴォに深い愛情・気配りを示す。というのも、バルダッサーレはコンサールヴォの叔父なのだ。
バルダッサーレは、コンサールヴォの祖父、コンサールヴォ7世の庶子(侍女に手を出して産ませた私生児)だった。難しい立場だったのだが、コンサールヴォ7世の命令で、家令となったのだ。ジャコモとは血を分けた異母弟なのだが、主人と従僕(召使い)というわけで、生まれのわずかな差で身分上の立場が天地ほども異なるのだ。
ところで、直系(嫡流)の孫には祖父の名前を受け継がせるというイタリアの伝統にならって、コンサールヴォは祖父と同じ名前を受け継ぎ、テレーザは祖母の名を受け継いだ。祖父母の名前を受け継ぐくことで、家門内での正当な立場=血統が証明されることになる。次男次女以下には、祖父母の兄弟姉妹の名を受け継がせる場合が多い。こうして家系や血統の系譜を証明するのだ。
だが、その命名法は――伝統を守るというだけでなく――兄弟姉妹のあいだに序列関係を刻印することであり、過去が現在と未来を縛りつけるということでもある。つまりは、ありがたがって受け継ぐべきほどの権力や富をもつ家柄ゆえの、家門墨守・維持のための仕組みなのだ。
その意味では、バルダッサーレは家門の祖先の名をつけてもらえなかった。
ジャコモは無慈悲で傲岸、尊大で専横だから、異母弟を忠実な僕としてこき使う。ここに、ジャコモが当主となっているウツェーダ家のありようが見えてくるではないか。
さて、ジャコモの父コンサールヴォ7世は公爵位のほかに伯爵位も保有していて、所領や資産は莫大なものだった。彼が逝去してのちは、妻のテレーザ(ジャコモたち兄弟姉妹の母親)が相続した。そして、公爵位を長男のジャコモに、伯爵位をライモンドに継承させることにした。だが、彼女自身の思惑とジャコモの独占欲との「同盟」によって、所領と財産の分与はおこなわずに、テレーザの名義のままだった。
そのテレーザの所領と資産の全部をジャコモが管理していた。財産を一手に独占しておくために、ジャコモは所領や資産のすべてを母親の所有名義のままにしておこうとしているのだ。
ジャコモには2人の弟がいる。そのうち物語に登場するのは、ライモンドで、普段は北イタリア(やフランス、ドイツ)の諸都市(本拠はフィレンツェ)を優雅に巡り歩いているらしい。大学で教育を受け、学問と芸術を深く愛する教養人である。視野偏狭で強欲、迷信に凝り固まっている父親ジャコモとは正反対で、コンサールヴォのお気に入りの「叔父さん」である。
いったいに考え方が開明的なので、旧弊なシチリアには、ことにウツェーダ家の雰囲気にはなじめないらしく、北イタリアにいったままだ。一族の権力や名誉、財産を独り占めしたいジャコモにとっては、頭脳明晰な弟が家にいない方が何かと都合がよいので、ライモンドが優雅に遊び暮らす資金を送り続けている。
で、ジャコモには未婚の妹で未婚の老嬢、ルクレーツィアがいる。彼女が結婚すれば、持参金として相当額の所領や資産の分与をしなければならないので、ジャコモはずっと妹結婚話に反対してきた。もし結婚を許すとすれば、相手が大富豪の有力貴族で、さしたる持参金を必要としない場合に限る、これがジャコモのいじましい考えだった。
ルクレーツィアは、やり手の弁護士、ジュレンテに恋をしたが、ジャコモは2人の付き合いを認めようとしていない。
ジャコモの一番下の妹、キアーラはすでにフェデリーコ伯爵に嫁いでいる。相当に富裕な貴族の家門だったので、ジャコモが結婚を許したようだ。富裕な貴族家門との婚姻=同盟こそ、ウツェーダ家の権力や富の持続のための条件であって、それこそジャコモにとって唯一の結婚許可の条件だった。
とはいえ、キアーラの持参金分の財産=所領は、何のかんのと理由をつけていまだにジャコモの統制下におかれたままである。どうやら、ジャコモはフェデリーコの後見人となっているらしい。