史上最大の作戦 目次
原題と原作
見どころとテーマ
あらすじ
とてつもなく長い1日
オーヴァーロード作戦
ヒトラーの電撃戦と誤算
戦線の拡大とメディア
長期戦への転換
占領・征服政策の欠如
泡のような膨張とリスクの累積
無策・無謀な国家指導者たち
戦線の膨張
枢軸同盟の成立
伸び切った東部戦線
兵站リスクの膨張
東部戦線の崩壊
ソ連軍の反転攻勢
北アフリカおよび地中海戦線
解放侵攻戦略の策定
イタリア降伏
アンツィオの戦い
連合軍のディレンマ
北西ヨーロッパの戦況
ノルマンディへの道
兵站構築(logisitics)
上陸地点は
ノルマンディ海岸
偶発的要素としての天候
ネプチューン作戦
作戦開始
5つの上陸地点
爆撃・砲撃戦
ドイツ軍の混乱
戦闘シーン
偶然が支配する戦況
戦争の形態の構造転換
全体戦争
ヒトラー=ナチス・ドイツの失敗
ヒトラーの無策・無謀
ゆがんだ情報システム
スーパー兵器の袋小路
突出しすぎた性能は戦線の混乱を呼ぶ
スーパー兵器の末路

■ゆがんだ情報システム■

  それにしても、ナチス・ドイツではヒトラーや少数の指導者に権力と権限が集中しすぎていました。個人崇拝ともいえるでしょう。
  この権力=序列関係のモデルは、軍隊と社会のあらゆる階層にあてはめられました。その結果、状況が悪化して問題が続発しても、下からは上官から褒められるような「都合のよい情報」しか伝えられなくなります。
  すると、指導者は誤った情報にもとづく、誤った状況判断に即して決定を下します。こうして、悪循環の袋小路に陥っていきます。

■スーパー兵器の袋小路■

  また、ヒトラーとそれ以前からの指導者たちが準備開発したドイツ軍の兵器や軍事技術を、電撃戦を成功に導いたすぐれた条件だと評価する立場もあるようです。
  しかし、すぐれて短期決戦だけに「過剰適応」した兵器と軍事技術でした、そのかぎりのものでしかなかったのです。つまり、軍総体としてのの通常の兵站補給体系への適合を度外視して開発創出されてしまった――自軍にとっても――モンスターなのです。
  そのため、持久戦にはまるきり向かない兵器でした。自国の継戦能力を消耗させるだけのものでした。

  もっとも、第2次世界戦争で華々しく登場するドイツの兵器・軍事技術の開発は1920年代末から始まっていましたから、あながちヒトラーひとりの責めというよりも、ドイツの軍部や軍需産業界全体の問題なのですが。
  それにしても、開発の促進と実戦配備、運用の指導者は、ヒトラーとその無茶な方針を真に受けた軍指導部だったのです。

  たとえば、重戦車ティーガー。
  すさまじい破壊力と防御性能を誇っているのですが、この戦車1台を製造するために膨大な資源が投入されたました。だから、通常の戦車や兵器の増産が決定的に妨げられました。
  ある研究によると、ティーガー戦車1両つくるために、少なくともパンター戦車200両の生産が犠牲となったそうです。
  しかも複雑で高度な生産技術、高性能の材料が必要でしたから、手間がかかり、ほんのわずかしか(500両未満)製造されませんでした。

ドイツ陸軍重戦車ティーガー
ドイツ陸軍X号戦車パンター
ソ連陸軍戦車T34/76

  そのために、まともに実戦配備されなかったのです。またその低劣な燃費によって、ただでさえ備蓄の乏しい石油資源の枯渇が加速されました。ティーガー1台の運用のために機甲連隊の機能が停止してしまうのです。キャタピラによる推進を止められてしまえば、おしまいなのです。
  機動力が低劣な戦車で、ウクライナやロシアの平原では、ソ連のT−34戦車によって正面ないし側面から体当たりをされると、もはや立ち往生で「擱挫かくざ」してしまいました。
  戦場で動けなくなった戦車は、蒸し焼きにされる「鉄の棺桶」でしかありません。

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