「僕のピアノコンチェルト」 目次
天才児の孤独と反抗、そして自立
原題について
見どころ
あらすじ
飛び立つ少年
天才児ヴィトゥス
父親レオの成功
ヴィトゥスの恋
ヴィトゥスの反逆
ヴィトゥスの孤独
異議申し立て
才能を失ったヴィトゥス
「普通の子ども」の楽しみ
祖父との絆
金融投機の冒険
ヴィトゥスの「自由空間」
イザベルとの再会
祖父の死
フォナクシス乗っ取り
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天才児の孤独と反抗、そして自立

  子どもの才能や素質はできるだけ早く育成・開発する方がいいのだろうか。天才児と言ってもまだ子ども。子どもの年齢にふさわしい時間の過ごし方もあっていいのではないだろうか。同じ年代の普通の子どもたちと一緒に遊び学ぶ機会を奪っていいのだろうか。この物語は、そんな問いかけを考えるきっけになる、ある天才少年の物語だ。

  いましがたの問いかけへの答えは、たぶん天才児とされる子どもごとに異なる答えになるのだろう。この映画作品に登場する天才児ヴィトゥスは、普通の子どもや大人たちに混じって生活することにも楽しさや生きがいを感じる少年だ。
  とはいえ、この少年は他方で、学習の能力や速度、深さについて自分が一般の子どもたちとかけ離れていることも自覚しているようだ。だから与えられた才能をどこに向けるのか真剣に悩んでいるようでもある。2006年作品。

原題について

  原題は Vitus で、ヴィトゥス。この物語の主人公の少年の名前。このヴィトゥスはローマ教会の聖人の1人の名前で、その聖人はシチリア出身の殉教者だという。
  有名な聖人であれば、ヨーロッパのキリスト教圏でなら子どもにそう名づけるのはさほど奇異ではないだろう。
  ヴィトゥスという名前は、おそらくラテン語の vitam に起源をもつものだろうと思う。ヴィタムとは、英語で言うと life で、「生命」「生存」「人生」「生涯」「生物」「生命力」「元気/活力」などの意味をもつ。
  そこで、映画の制作陣としてこの名前に何らかの含意を込めるたとするなら、少年が自らの人生や生き方について考え、悩みながら歩み出すというようなことになるのではないだろうか。つまり、天才児ゆえに親や周囲の大人たちに期待されるがゆえに、たえずプレッシャーや側圧バイアスを受けるのだが、自分の人生を自ら決め選び取るというような含意だ。

見どころ

  スイスのドイツ語圏でつくられた映画作品。映画のオリジナル版ではドイツ語が使われている。
  飛び抜けた知能をもって生まれてしまったために、「普通の子ども」としての生活を送ることができない少年の孤独と人間としての自立への歩みを描いたファンタジー。
  ファンタジーとはいっても、舞台は現代のスイス社会。市場シェアや利潤をめぐるハイテク企業間の激しい競争もあるし、IT化し国際化した金融取引も繰り広げられている。
  天賦の才能ゆえに周囲の大人たちによって過剰に期待され、普通の子どもの世界から切り離されて「特別教育」や「英才教育」の世界に封じ込められてしまったヴィトゥス。
  はじめは上級生や「おとな」をからかうことを楽しんでいたが、やがて特別視と特別扱い――とくにピアノの英才教育――がいやになり、普通の子どもの生活を送りたくなった。それは、自らのアイデンティティについて考え悩み、人間としての自立へのステップだった。
  こうして天才児の一風変わった「反抗期」が始まった。
  人間にとって才能・素質とは何か。子どもの成長に合った環境とは何か。人生の目標とは何か。などについて考える材料を提示してくれる傑作。

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