ウィル・フリーマンは38歳の独身男。彼は父親から受け継いだ遺産のおかげで、大金はないが、仕事に就かずに気ままに暮らすことができる。
彼が父親から相続したのは、父親が生涯で一度のヒット曲「サンタのスーパースレイ」――スレイは橇――というクリスマスソングの著作権使用料だった。
クリスマスシーズンになると、町の人びとはたいてい一度はこの曲を口にする。メディアでも、デパートやショッピングモールでもBGMで流される。というわけで、毎年、彼には数万ポンドの著作権使用料が支払われるのだ。
あまり贅沢はできないが、定職もないのにアウディのスポーツ車を乗り回し、好きなだけCDやDVD、書籍を買って楽しむほどの収入を保証してくれる。
「だれにも縛られない気ままな生活」それが、彼が望む「クールな暮らし」だった。
ある日、友人の夫婦、ジョンとクリスティーヌから家に招かれて、生まれたばかりの女児の後見人・名付け親になってくれと頼まれ、「僕は浅い男で、何の取り柄もないから…」と言い訳して、どうにか頼みを振り切った。
だが、孤独に暮らすウィルを心配して、夫妻は、付き合う相手として友人の美女、アンジーを紹介した。
アンジーは予想以上の美女だったが、「問題」があった。彼女の打ち明け話によると、彼女には3歳の息子がいる。そして、しばらく前に離婚したばかりだという。つまりは、傷心のシングルマザーなのだ。
内心舌打ちしたウィルだったが、「それは感激だ。ぼくは子どもが大好きなんだ」と、相手の喜ぶ返答をした。というわけで、付き合いが始まった。デイトのとき、動物園で子どもを喜ばせたりして、ウィルは相手のホスピタリティを高める読みが深いので、アンジー親子にすっかり気に入られてしまった。
だが、ウィルは浅い付き合いを好むので、このまま結婚を考えるような深い付き合いになったらどうしようと心配し始めた。
だが、とんだ杞憂だった。別れはアンジーの方から言い出した。前の夫とのいざこざの辛い記憶(PTSD)があって、これ以上深く男性とは付き合い続けることができないというのだ。ということは、ウィルの側から別れ話を持ち出して、「別れの罪悪感」を背負い込まなくて済むというわけだ。
…というわけで、ウィルは、この経験から無責任な教訓を引き出した。
「そうか! 離婚したての若いシングルマザーなら、ぼくのような優しい男性との付き合いを求めている。しかし、離婚までのPTSDがあって、長続きしないし、結婚を回避しがちなのだ」と。つまり、底の浅いナンパを求める男にとって、未開拓の将来有望な買い手市場ではないか、と。
だから、ウィルは若いシングルマザーたちが集まる場がどこにあるかを探し始めた。
すると、ある書店のフリー掲示板に「Single Parents Alone Together !(孤独な片親よ集まろう!)」というステッカーを見つけた。
ウィルは高鳴る胸を押さえて、会場に出かけた。参加者は女性ばかりだった。
ところが、彼女たちが語る経験は、夫の横暴や浮気、身勝手など、男である自分が情けなるほどに悲惨な話だった。ウィルはちょっぴり無責任でお気軽だが、やさしく繊細なのだ。
だが、モテたいナンパしたいウィルは、ネッドという名の2歳の息子を育てるシングルファーザーという身分を偽装することにした。今でも別れた妻を愛している元夫、温和で善良で、未練がましい父親という役割を演じた。
彼は素敵な若いシングルマザー、スージーと出会って打ち解け、次の休日にデイトする約束を取り付けた。