アバウト・ア・ボーイ 目次
ブリティッシュな人びと
原作について
見どころ
あらすじ
気楽な独身男
孤独な少年マーカス
不運続きのマーカス
マーカスの作戦
奇妙な友情
クリスマス・パーティ
ウィルの恋、マーカスの初恋
奮い立つマーカス
ウィルの飛び入り伴奏
新たな仲間
家族から生活仲間へ
「家族」という文明装置の曲がり角
おススメのサイト
人生を省察する映画
サンジャックへの路
阿弥陀堂だより
のどかな信州の旅だより
信州まちあるき

ウィルの飛び入り伴奏

  ウィルが学校に到着すると、すでにロック大会は始まっていた。ウィルが会場に入ると、ヒップホップのティームがクールにぶっ飛んだパフォーマンス――ストリート・ダンス風――を繰り広げていた。なかでも目立つのは、あのアリステアの曲芸的アクロバティックなパフォーマンスだった。

  ウィルが観客席のあいだを縫ってステイジに近づこうとすると、観客席にはレイチェルもいた。息子の活躍を見るため応援に来たらしい。
  ウィルはレイチェルに「あなたの息子はすごい才能を持っている」と礼讃を送った。
  ヒップホップ・ティームの番が終わって、マーカスの番になった。

  だが、直前になって、リコーダーの伴奏をすることになっていた同級生が、周囲の侮蔑的かつ威圧的な視線にビビって、伴奏を辞退してしまった。マーカスはたった1人でステイジに出るしかない。ただでさえ、ブーイングとヤジが嵐のように飛び交いそうな雰囲気なのに。
  おずおずとステイジに出たマーカスは、圧迫感と羞恥心ですっかり緊張していた。
  ようやく舞台の袖まで到達したウィルが、ステイジに立っているマーカスに上演をやめるようにアドヴァイスした。だが、マーカスは決然と、しかし震え気味の弱よわしい声――ボウイズソプラノ――で歌い始めた。ヤジとブーイングが始まった。

  見ていられなくなったウィルが、ロックバンドの少女からエレキギターを借りると、伴奏のためにマーカスの横に出ていった。応援を得たマーカスは、俄然勇気がわ浮いたのか、前よりもずっと力強い声で歌い出した。
  ウィルも、はじめのうちは嘲笑的なティーンエイジャーの前でビビっていた。だが、真剣なマーカスの姿を見るにつけ、何とか応援しようと一途になった。そして、やがて「どうだガキども、文句あるか!」というくらいに挑戦的なスタイルで演奏するようになった。
  ところが不思議なもので、無茶苦茶ダサいことを必死に真剣に取り組むマーカスとウィルの姿は、逆に少年少女の共感を呼んだらしい。場の雰囲気を極端に外すことは、大いに目立つからか、若者たちにはカッコイイことなのかもしれない。
  あのエリーもマーカスの勇気に感激し、その「頼りない友だち」ウィルをも見直した。レイチェルもウィルの勇気を見直した。

新たな仲間( new companion )

  こうして、ロック大会でいろいろな世代から幅広く人気と信頼を獲得した――しかしどこか「浅くて軽い」印象がぬぐえない――ウィルは、若者から老年までの人びとから仲間として受け入れられることになった。
  こうしていまやウィルの住居は、マーカスやエリー、アリステアなどのティーンエイジャーから、レイチェルやフィオーナ、さらにウィルが気まぐれにヴォランティアをしたことがある「ミャンマーに民主主義を!」という団体のメンバーの初老の男性まで、多くの仲間が寄り集まる場になった。
  レイチェルもウィルのガールフレンド(彼女)として、息子のアリステア公認の仲になっていて、頻繁にここに来ている。
  結婚するかどうかはわからない。
  だが、家庭をつくることを拒否してきたウィルは、従来の社会慣習では考えられないような、新たな次元・形態の家族、共同生活者、仲間を手に入れることができそうだ。
  従来の定型化された家族を単位とする人びとの絆や社会制度はどんどん流動化して、不定型アモルフな社会状になってしまっている。だが、人という生物が生き続けるためには安定した絆で結ばれた集合単位が必要だ。ウィルもマーカスも、定型的な枠組みから脱落しているメンバーだが、新たな絆を取り結ぼうとしているのだろう。

  世界のスーパーエリート国家としての地位を失って久しいブリテンの首都ロンドンは、独り暮らし老人世帯の多さや離婚、家族崩壊など、先進国での人びとの孤独や孤立化傾向の最先端を走っている。そのロンドンで、旧来の家族の絆や習慣が崩壊したしまった社会で、それでも人びとは「環境としての社会で」生きるために互いに《新しい共同生活者》を求め、つくり出す傾向を描いたのが、この作品なのだろう。

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