アバウト・ア・ボーイ 目次
ブリティッシュな人びと
原作について
見どころ
あらすじ
気楽な独身男
孤独な少年マーカス
不運続きのマーカス
マーカスの作戦
奇妙な友情
クリスマス・パーティ
ウィルの恋、マーカスの初恋
奮い立つマーカス
ウィルの飛び入り伴奏
新たな仲間
家族から生活仲間へ
「家族」という文明装置の曲がり角
おススメのサイト
人生を省察する映画
サンジャックへの路
阿弥陀堂だより
のどかな信州の旅だより
信州まちあるき

■「家族」という文明装置の曲がり角■

  日本ではとりわけ衣食住や子育てをめぐるケアを奥さんに任せきりにした「会社人間」オトコたちは、会社組織を離れて、家庭内の人間関係を組み換える必要に迫られている。何か言いつける相手としてしか妻と接してこなかったようなダンナには、もはや生きる余地はなくなってきているとさえいえる。

  いろいろな人びとと仲良くなり、相手に対して不快感を与えず、でありながら「本音」や「要求」を巧みに表現できるような関係や絆をつくり上げる態度やコミュニケイション能力、包容力が不可欠になるだろう。
  「最近の若いやつらは・・・」という偉そうな枕詞を捨て去り、年の離れた世代とも交流して相手を認め、仲良くなり、なおかつ自分の存在をしたたかにアピールし、相手のニーズも満たす代わりに、自分のニーズもそこそこ満たしてもらえるような関係性を築くことが。


  この映画は、この点において、すごく参考になる。
  ウィルは「自己中心的発想」の塊のような人間である。だが、ひょんなことから、仕方なくマーカスという少年を住居に迎え入れて時間と空間(生活の一部分)を共有する間柄になる。そして、相手のことを心配したり、相手のニーズや悩みに――なかなかうまくはいかないが――応えようとする試行錯誤の楽しさや悩みを経験していく。
  やがて、軽薄なナンパの相手ではなく、結婚していっしょに家族を築きたいと願う相手も現れる。
  だが、それは、その相手とその息子という狭い人間関係や家族単位にとどまることではなく、相手の背後にあるはるかに広い雑多な人間関係をも、そっくり抱え込み引き受けようという意識や決意をみずから育てていくことでもあった。
  まあ、家族や家庭を築くということは、言ってみれば、総じてそういうことなのだろう。これまでは、そういうことを「世の中のしきたり」という形で受け入れてきたのだが、今ではより自覚的におこなう必要があるのだろう。

  ところで文明化=都市化、コマーシャリゼイションのなかで、私たちは「核家族」を基本形態とする家庭やコミュニティを形成してしまった。他人との接触や干渉などから自由な社会関係を築き上げてきた。分子化・原子化した核家族や個人を社会福祉の制度で社会化し再結合させてきたが、この仕組みが財政危機のなかでだんだん機能不全になりつつあるのだ。
  先進諸国では、経済成長の可能性は急速に失われて経済的所得の分配格差とか社会保障制度の限界から、こういう都市型核家族という基本単位では、もはや庶民たちはうまく暮らしていけないような環境をこしらえてしまったようだ。

  ことに日本では、会社=企業というものが、とりわけ男たちを家庭やネイバーフッドから切り離して所得の主要な稼ぎ手して培養する社会環境が執拗につくり上げられた。ところが、日本型の「終身雇用」制度は経済成長が停滞した途端にその醜悪な限界を露呈してきたのかもしれない。
  「学園紛争」の世代は、卒業すると瞬く間に、企業支配型社会に順応してしまった。彼らは「革命」だの「変革」を叫んだが、それらは単なす「流行語」でしかなかった。私たち下の世代を「批判精神がない」「問題意識がない」とこき下ろしたあの世代は、企業支配型の秩序を強化しただけだった。

  で「ポスト学園紛争」の世代なのに、私たちなかには、「食事づくり」や「掃除洗濯などの家事」を奥さんに任せ切りで、ただ「給料取り」であればいい、というような生活=行動スタイルの型にはめ込まれた人も多い。
  大学生活などで「男女同等パリティ」という思想や立場の洗礼を受けたにもかかわらず。言葉だけ覚えただけで、「面倒なこと」は女性に押しつけ依存する生活スタイルからはなかなか離脱できなかったといえる。
  家事などについての技能や判断力、処方箋を身につける訓練機会をうまく利用することもあまりなかった。そういう人たちが多いのだ。これでは、企業内でどれほど地位が偉かろうが、生活者としては「とんでもない落ちこぼれ」だ。

  生活の場でコンパニオンづくりを対等な立場でおこなうということは、そういう技能やスタイルがまず前提となる。まあ、企業の内部で「顧客のニーズ」把握や顧客満足のためのスキルや視点を総動員して、仲間になりうる人びとのニーズや悩みを拾い上げて、いっしょに悩む練習をするしかないだろう。

前のページへ |

総合サイトマップ

ジャンル
映像表現の方法
異端の挑戦
現代アメリカ社会
現代ヨーロッパ社会
ヨーロッパの歴史
アメリカの歴史
戦争史・軍事史
アジア/アフリカ
現代日本社会
日本の歴史と社会
ラテンアメリカ
地球環境と人類文明
芸術と社会
生物史・生命
人生についての省察
世界経済
SF・近未来世界