アバウト・ア・ボーイ 目次
ブリティッシュな人びと
原作について
見どころ
あらすじ
気楽な独身男
孤独な少年マーカス
不運続きのマーカス
マーカスの作戦
奇妙な友情
クリスマス・パーティ
ウィルの恋、マーカスの初恋
奮い立つマーカス
ウィルの飛び入り伴奏
新たな仲間
家族から生活仲間へ
「家族」という文明装置の曲がり角
おススメのサイト
人生を省察する映画
サンジャックへの路
阿弥陀堂だより
のどかな信州の旅だより
信州まちあるき

不運続きのマーカス

  さて、そのマーカスはウィルとスージーの初デイトに付き合うことになった。だが、鋭いマーカスは、ウィルの狙いがナンパだとすぐに気づいた。
  ウィルはといえば、美貌のシングルマザーと期待どおりのデイトの進行に心ときめいていた。が、小生意気なマーカスがスージーについてきたのが気に入らなかった。だが、あくまで、上辺はだれにも優しい「ウィルおじさん」を演じ続けることにした。
  スージーはウィルの暮らしぶりを尋ねた。最初の質問は、仕事は何かというものだった。
  ここで嘘を言うと、あとになって辻褄合わせが難しくなる。事実を抽象的に伝えて、その場は軽く過ぎようとした。
  「今は、とくに何も」
  ところが、スージーは質問を続ける。
  「じゃあ、これまでに就いた職業は?」
  「テンポラリーな仕事なら…。定職には就いたことがないんだ」
  「では、どうやって生計を立てているの?」 ごく当然の質問だ。
  「父親からの遺産があってね」
  「何なの?」
  「1曲だけ、クリスマスソングなんだ。そのロイヤルティが入ってくるんだ」
  そこにマーカスが横から割り込む。
  「ねえ知ってる? マイケル・ジャクスンはねえ、1分間当たりの印税ロイヤルティが100万ドルなんだって」
  内心いささかむっとしながら、ウィルは憮然として答える。
  「ぼくの場合は、そんなに大金じゃあないよ。どうにか生活できる程度さ」
  さらに、スージーの質問。
  「ねえ、その曲はなんていうの?」
  答えを渋るウィル。だが、執拗に答えを迫られてしぶしぶ答える。
  「『サンタのスーパースレイ』だよ」
  スージーとマーカスは顔を輝かせる。
  「ああ、知ってる。よく歌うよ、クリスマスシーズンにはね」と言って、2人は声をそろえて歌い始めた。だが、ウィルはげんなりした。話がどうも安っぽくなるような気がするからだ。

  会話が済むとスージーとウィルは池の近くの芝生に場所を取ってランチの準備を始めた。
  ところが、マーカスは母親から受け取ったパンを持って1人で池の畔まで歩いた。カチンカチンのフランスパン風の堅パンで、直径20cmくらいの丸いパンだ。だが、12歳の少年マーカスですら食いちぎるのは容易でない固いパン。マーカスは食べたくなかった。で、力を込めてちぎって池のカモの群にやった。
  だが、固すぎるパンをちぎるのは大変で、面倒くさくなった。そこで、まだ大きなパンを丸ごと池に投げ込んだ。破壊力のあるパン塊は、運の悪いカモに直撃、即死してしまった。真っ青になるマーカス。池の畔で愕然としていた。


  そこに公園の監視員がやって来た。
  「誰だ、カモを殺したのは?!」大声で怒鳴りまくった。
  騒ぎを聞きつけたウィルとスージーがやって来た。そして、マーカスから経緯を聞いた。
  その場の雰囲気を素早く読み取り、とっさの嘘でごまかすのがうまいウィルの機転が働いた。
  「いや、あのカモはすでに死んでいたんだ。投げたパンは関係ないよ…」
  というわけで、その場を取り繕った。

  だが、マーカスの不運はこれで終わらなかった。
  デイトが終わって家に帰ることになった。まずはマーカスのフラットに寄った。マーカスとスージーに連れだってウィルも家に入った。
  居間のソウファにフィオーナが倒れていた。睡眠薬をたくさん飲んで自殺をはかったらしい。すぐに救急車を呼んで病院に直行した。
  幸いにしてアルコールを飲まなかったので、フィオーナはすぐに意識を回復した。命に別条はなかった。というわけで、その日のウィルのデイトはとんだハプニングで終わった。

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