そんな2人が、スティーヴン・ケレン対アルゴ・モーターズの訴訟で、弁護士として鋭く敵対する陣営に分かれて戦うことになってしまった。
被告企業、アルゴ社の依頼を受けて、クイン法律事務所でも、裁判闘争での戦闘態勢を固めることになった。アルゴ社への法務サーヴィスを総括するパートナー、マイケル・グレイザーが、自分の部屋にマーガレットとバーンスタインを呼んだ。今回の事件での訴訟担当者を選任するためだ。
2人は、有能なアソシエイト――アソシエイトには連帯する仲間という意味があるが、補助的な役割を担う者という意味もある――のなかでも、次期パートナー昇格をめぐるレイスの先頭争いを演じている。
アルゴ社はクイン事務所が顧問をしている大企業のなかでも、最大の企業であり、事務所の顧問料収入、成功報酬でも飛び抜けて大きなシェアを占めている。つまり、最大限の配慮をはかる必要があるクライアントだ。
だから、この事件の担当者に選ばれて実績を積み上げれば、次期パートナーの地位は間違いなく保証されるはずだ。2人とも、自分が担当したいと売り込んだ。
グレイザーは、「2人の意欲はわかった、これから検討して結論を出すので、自分のオフィスに戻って待つように」と告げた。
2人はそれぞれ自室に戻っていった。が、マギーはこっそり抜け出して、グレイザーの部屋に戻り、どうしても自分がやりたいと言い出した。グレイザーは、そのつもりだと答えた。
マイケルは、はじめからマギーに担当させる腹積もりだったようだ。
というのも、彼はマギーと恋愛関係にあるからだ。彼女の部屋に入り浸っていて、事実上、同棲状態にある。彼としては、この関係を事務所で公にして、フォーマルな関係にしていきたいと考えている。が、マギーは拒んでいる。
有力な若手のパートナーと恋愛関係にあることで、成績=人事評価で優遇されているような印象をつくりたくないからだ。今のところ、マギーは、自分自身の能力と実績でキャリア競争でトップに立っている。このまま、自分の力で事務所始まって以来最も若い年齢でパートナーの地位に登りつめてから、マイケルとの関係を公表するようにもっていきたいのだ。
だが、マイケルはマギーへの愛情だけで、彼女を今回の事件の担当者に決めたわけではなかった。そこには怜悧な計算がはたらいていた。相手の主張の弱点を正確に見抜き、容赦なく攻撃を浴びせるマギーの能力が、今回の事態を切り抜けるためには、どうしても必要だと考えたからだった。
というわけで、マギーはアルゴ側の主任弁護士となった。もちろん、父親のタッカーが原告側の代理人となっていることは、重々知っていた。父親への反発心がここでもはたらいたのかもしれない。それが、キャリア志向とないまぜになったようだ。