裁判官控え室では、裁判長が呼びつけた原告側と被告側双方の弁護人を交えて、終盤に来て混乱が生じた審理にどういう決着をつけるかが話し合われた。
裁判長は、まずクイン法律事務所の不手際を難詰した。クインは、グレイザーに対してはアルゴの顧問弁護士を解任し、事務所からの解雇すると弁明した。
とはいえ、すでにここまで来てしまった事態にどう収拾をつけるかについては、クインには何の手立てもなかった。
裁判長は和解をそれとなく勧告し、タッカー・ウォードに条件の提示を求めた。タッカーは強気だった。このまま評決にいたっても、圧倒的な勝訴になるのは間違いないからだ。
彼はこの際、企業と大手法律事務所に断固として「鉄槌を下す」べきだと考えた。そこで、和解条件は、この状況では、原告側ではなく、許しを請うべき被告側が提示すべきだ、と主張した。
「3000万ドルではどうだ?」とクイン。
「問題外だ!」とタッカ−。
「それなら、7000万ドルでは?」
「リスク管理部が推算した額じゃあないか。まだまだ」
「こんな高額でも納得しないのか。許しがたい」と激昂するクイン。
裁判長も驚いて、タッカーの顔を見つめる。
「こちらは、このまま評決に持ち込んでもいいんだ。そうなれば、致命的なダメイジを受けるのはそっちだぞ」と強気を維持するタッカー。
というすったもんだで、結局、クインは1億ドルを提示して和解に漕ぎつけた。
ついでにタッカーはクインに圧力をかけた。
「俺の娘に不当な人事処分をしたら、許さないぞ(つまり、事務所ぐるみの違法行為を公表して、その威信と信用を崩壊させてしまうぞ、とうい脅し)」
その夜遅くまで、タッカー&ホルブルック事務所の勝訴祝いのパーティは続いた。一同はもはや何回目かわからない乾杯をした。もう時刻は「翌日」を告げ、レストランのスタッフたちは店仕舞いの支度を始めている。
そこにマギーが現れた。そして、父親の顔を見ると、「ありがとう」とお礼を言った。法律家としての窮地を脱する作戦を一緒に検討し、法廷で共同作戦を展開してくれたからだ。
「いや、こちらこそ感謝している。ありがとう」 父娘は近寄り抱擁し合った。
そのまま、2人はダンスを始めた。
先日の父と母の結婚記念日のパーティでは、口論のあげくに別れてしまった。ここでようやく、父と娘の和解と絆の回復が成った。亡きエステルが心から望んだものだった。
絵に描いたような型どおりの大団円の決着だが、むずかしい訴訟劇・法廷闘争をみごとに描き出した傑作だ。法曹の道を志す若い世代には、ぜひ観てほしい作品だ。専門書だけでは理解できないことまで、丹念に描いている。そしてこの物語を観た後ならば、専門書もわかりやすくなる。
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