訴  訟クラスアクション 目次
大企業 vs 市民、・・・
原題について
見どころ
あらすじ
クラスアクション
不法行為責任の追及
営利企業としての法律事務所
自動車事故
父 と 娘
法廷でも敵味方に
板ばさみの苦悩
裁判をめぐる力関係と駆け引き
エステルの死
証人つぶし
マギーの戦いのスタイル
パヴェル博士の試験
隠蔽された報告書
人生の岐路
タッカーの闘い
父娘の絆、そして法律家どうしとして
父親譲りの反骨精神
悪役に徹する?
タッカーとマギーの計略
決 定 打
決   着
法廷闘争もの映画作品
評   決

人生の岐路

  マギーは、事務所のやり方に大きな不審と幻滅を抱き始めた。悩みは深い。それで、何となく父の家に寄ってみた。
  そこは、タッカーたちの法律事務所の作業場になっていた。アルゴ側から送られた書類(段ボール箱)がいくつも山に積まれていた。タッカーは外出中で、ホルブルックが1人で、書類の山を点検していた。その顔には深い疲労が刻まれていた。
  マギーはホルブルックに挨拶した。そして、父親がいないので帰ろうとすると、コーヒーを勧められた。2人は一服しながら、少し会話した。

  話の最後にホルブルックはマギーに問いかけた。
「われわれが使えるスタッフだけでは、この書類を調べきれないだろう。いずれにしろ、君はこの裁判に勝つだろう。あれだけの金とスタッフを駆使しているのだから。・・・でも、勝訴したとして、君はそこからいったい何を得ることができるんだい?」
  名誉や自負心の満足は得られないだろうというのだ。

  法律論的な見方はともかく、良識的にはアルゴに設計ミスという重大な過失があることは明白だ。だが、原告側がそれを明白に証明する証拠を提示することはできそうもない。だから、マギーは主任弁護士としてアルゴの利益を守ることができた、と評価されるだろう。
  だが、それは弱い市民を平然と叩き潰す大企業べったりの「御用弁護士」として評価されるにすぎない。少女の頃からマギーを見てきた、父の同僚、ホルブルックから見ると、それはマギーの性格に反している。自尊心や矜持、プロとしての誇りを満足させるものではない。それははっきりしている。マギーは、もっと高い目標をめざしてきたはずだ、というのだ。
  その指摘は当たっていた。

タッカーの闘い

  さて、アルゴから送られてきた膨大な資料の山を見て、タッカーは何ごとかを考えていた。書類の点検で疲れ切った様子のホルブルックが、タッカーにどうするか尋ねた。
  これだけの文書を送りつけてきたことには、何か意図があるはずだ。やはり設計上の問題があって、それを証拠立てる資料を発見させないように企んでのことだろう、タッカーは事態をこう評価した。そして、関係者の住所録からパヴェル博士の現住所をつかみ、直接訪ねるつもりだと返事した。
  パヴェルと面談したタッカーは、メリディアンの電気系統の配線ミスが燃料タンクへの引火・爆発の原因になったはずだという確信を得た。そこで、パヴェルに証人として証言するように頼んで、法廷での証言についての打ち合わせをおこなった。

父娘の絆、そして法律家どうしとして

  そして雨の日の夜。マギーは自室のなかで、今後どうするか思い悩んでいた。
  というのも、グレイザーがじつはパヴェルの試験記録をこっそり抜き出して、隠し、そのうえ、書類リストからも削除してしまったことを知ったからだ。その行為は、弁護士の最重要の倫理規定に対する違反に当たり、発覚すれば、弁護士資格の剥奪と被告側の即敗訴という結果を招くことになるからだった。恥ずべき、唾棄すべき破廉恥な行動だった。
  それを黙認すれば、違法行為への加担となり、マギー自信の地位も危なくなってしまうのだ。逆に告発すれば、法律事務所への裏切りとして、法曹界での信用を失うだろう。
  所長のクインにグレイザーの文書隠蔽を訴えて相談したが、やはり事務所の表向きの名誉を守ることを優先し、マギーにその事実を伏せるように指示した。

  そんな折、父親のタッカーが彼女の部屋を訪れた。居間に入るように誘われて、タッカーは「先日、私の外出中に家に来てくれたんだって。何か話したいことがあるのかなと、気にかかってね」と言い出した。そして、
「いや、それよりも、このあいだは言い過ぎた。それを誤りたくてな・・・。いや、最後まで言わせてくれ。お前に図星を指されたので、つい感情的になってしまった。
  お前の指摘したようなことは、じつは自分でもそうじゃないかと自問することがあるんだ。俺のやっていることは正しいのか、とね。得た名声を失うのが怖くなることもしょっちゅうだ。いや、自分がそういう評価に値するのか、自信を失うことばかりさ・・・」

  今日のタッカーは、素直に自分の欠点や弱さを娘にさらけ出した。互いに厳しい法廷闘争の敵味方として、大きな重圧を受けている。自分も苦しいが、娘も悩んでいるだろう。そんなときだから、せめて娘を気づかってやりたい。そんな気持ちが込められていた。
  マギーは、そのときはじめて父親といく分心が通じ合ったような気がした。それで、自分の悩みを打ち明けることにした。
  つまり、クイン法律事務所が弁護司法が要求する倫理規定を踏み破っても、事務所の表向きの面子を取り繕い、アルゴの過失責任を隠蔽しようとしている、そんなとき、法律家としての良心を失うことなく、客観的かつ長期的にアルゴというクライアントの利益(企業としての信頼性)を誠実に擁護するような策はあるのか、と。
  マギーは、原告側弁護士の父親に、グレイザーによる証拠隠蔽の事実を告げたのだ。
  これは、法制度上は、法の要求と弁護士倫理、そして依頼人の立場を守るために弁護士として、緊急回避的に許される行為である。
  父と娘は、周到に対策を練った。

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