翌日マギーは、アルゴの書類保管庫に入って、メリディアンの開発試験の記録を探した。ようやく見つけた資料のなかにパヴェル博士の報告書はなかったが、ノート(試験記録)は残されていた。
ノートには、試験項目や試験方法、結果と分析結果など、報告書の基礎資料が記述されていた。そのなかには、設計仕様における電気系統の配線の問題が指摘され、衝撃試験では燃料タンクが炎上した事実が記録されていた。では、なぜ危険性を指摘した報告書はないのか。
ノートを手にして事務所に戻ったマギーは、アルゴの現社長(CEO)のゲッチェル博士に電話を入れてパヴェルの報告書の扱いについて質問した。
ゲッチェルは質問が心外だという反応を示した。
「パヴェル? ああ、あのピンボケの試験屋か。製造が始まってから報告書を受け取ったよ。それをどうしたかって?
ああ、お宅の事務所の顧問弁護士(グレイザー)に報告書を見せて相談したよ。そのままで何も問題はない、という返答だったよ。それが何か・・・」
マギーは大きな衝撃を受けた。そのまま受話器を置くと、グレイザーの部屋に行って問い詰めた。すると、グレイザーは自分の判断ミスを認めた。
「あのときはいくつもの仕事に追いまくられていて、報告書の内容を取り違えてしまったんだ。それで、問題はないと答えたが、それは私の誤りだった。けれども、事態はここまで動いてしまったんだから、何とか問題を封じ込めなければならない」
「でも、何人も死傷者が出たのよ。顧客としてのアルゴの法的立場を守るためには、過失を認めて和解にもっていくべきだわ」とマギー。
「ばかを言うな。アルゴは撃ちの法律事務所の最大の顧客の1つだ。何百万ドルも顧問料を払っているんだぞ。今さら、過失責任を明らかにできるか。何とか、勝訴にもっていくべきだ。だから、報告書のことはないということにするんだ」グレイザーは過失を認めるつまりはない。
「そのことがあったから、私をこの訴訟の主任弁護士にしたのね。ベッドをともにしている女だから、言うことを聞くと・・・」マギーは不信感をぶつけた。
納得のいかないマギーは、所長のクインに事態を報告した。クインはマギーとグレイザーを呼びつけて、今後の対策を検討した。その結果、事務所の面子を保つために、やはり報告書の件はなかったことにする、ただし積極的な隠蔽工作は、法律=弁護士法ならびに倫理規定に違反するのでしないという方針を決めた。だが、マギーはクインに迫った。
タッカーとホルブルックは、メリディアンの開発・設計に関するすべての資料の引渡しを要求している。ノートを提出しないわけにはいかない、と。
「すべてを渡すさ。あらゆる文書をね。膨大な資料の量になるよ」とクイン。
「そうか、日々の電話メモから細かな買い物のレシートまで、とにかくすべてを引き渡せばいい。文書の山のなかに試験記録は埋もれてしまって探し出せないようにするんだ」
しかも、グレイザーは文書(項目)リストをわざと難解にして、試験記録を雑多の文書の項目のなかに紛れるように配列した。
タッカーたちに渡された証拠文書は、大きなトラックいっぱいの荷物で、大きな段ボール箱が何十個にもなった。ホルブルックは途方にくれてしまった。それでも、片端から点検を始めた。