2014年版ゴジラ 目次
組み換えられたゴジラ神話
パラレルワールドのゴジラ
核超大国アメリカの意識…
核開発競争と「モナーク」
ムートー
原発崩壊
ムートー覚醒
ゴジラ、ハワイに出現
2大怪獣と人類
雌ムートー出現
核弾頭の運搬
サンフランシスコの混乱
ムートー産卵
核弾頭奪回作戦
人類の闘いと怪獣決戦
瓦礫だらけの都市残骸のなかで
ゴジラ神話の新展開へ
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風の谷のナウシカ

核超大国アメリカの意識状況

  前作のハリウッド版ゴジラでは、海生イグアナがフランスのムルロワ環礁での核実験による放射線を浴びて突然変異を起こして超巨大怪獣になったという設定だった。つまり、日本の1954年版ゴジラが提示した発生起源の論理の延長線上にあった。
  そこには、ゴジラの発生原因が、直接的には、アメリカではなくフランスの核実験だったということで、合衆国の核開発への批判的な文脈が取り除かれているように見える。

  とはいえ、それでも、核兵器開発が原因で、地球の生態系が破壊され、人類の存在を脅かす――人類の滅亡の危機を招きかねない――巨大怪獣が出現したという文脈で、核兵器や発電所も含めた核開発への疑念や批判を込めていたのではないだろうか――批判精神はかなり薄められていたが。
  さらに、海生イグアナのなかには、南太平洋・ポリネシアから遥かに離れた海域に移動するかもしれないという論理を介在させれば、ゴジラの発生起源はアメリカも含むすべての核保有国に関連づけられることになる。
  ハリウッド映画人の批判精神が、そういうアメリカ市民の核兵器開発・保有についての「自己批判」への「抜け穴」を用意したのではないかと思う。


  ところが、2014年版ではゴジラ発生起源は完全に換骨奪胎されてしまっている。
  この《ゴジラ発生起源プロット》の組み換えは、以下での2014年版の物語の展開のなかで示すことにする。
  この発生起源ストーリーの組み換えは、現状の合衆国の政治的・軍事的イデオロギー状況に適合(迎合)したものなのかもしれない。先頃、日本の団体が企画したスミソニアン博物館での原爆展――被爆の惨状の展示――がアメリカの保守派や軍関係者の猛烈な反対で開催できなくなったことを考えると、その可能性は大きいと言えるだろう。

  というのも、この作品では、核兵器開発や核兵器使用を批判する視点は、芹沢教授のセリフを除けば、この物語からすっかり抜け落ちているからだ。
  やはり、ハリウッドでは、核兵器の開発と保有をめぐる疑念や批判を映像物語に表現することは、いまだにタブー視されているということなのだろう。
  とはいえ、この作品――少なくとも日本向けヴァージョン――では、芹沢教授の父親が太平洋戦争中、広島で被爆したことになっている。芹沢は原爆投下時に停止した父親の懐中時計を今でも身に着けている。そして、父の被爆死がきっかけで放射線生物学を研究する人生を選択したことになっている。
  ただし、アメリカで公開されたヴァージョンでは、もしかするとこのシーンはないかもしれない。

  ところで、日本映画のゴジラ・シリーズでも物語を「大怪獣決戦」のプロットにする場合には状況設定がかなりファンタジー化しても許されてきた。2014年版のゴジラ映画の制作陣にとっては幸運なことに、ゴジラとムートーとの闘争をテーマとしたために、上記のようなアメリカの意識状況に合わせたストーリー・プロットにしても許される制作環境が用意された言えるだろう。

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