さて、ステンツ海軍少将はヘリで運搬されてきた核弾頭を高速ボートに乗せて沖合に運搬する作業を指揮した。そしてフォードに命じて、起爆装置を数時間後起爆にセットさせた。
ところが、出航しようとしたそのとき、電磁パルスが襲ってきてボートのエンジンは停止してしまった。雄ムートーが上空から襲いかかってきて、核弾頭を奪い持ち去った。
ムートーの電磁パルスは周囲一帯におよび、あらゆる艦艇の兵器とエンジンは停止し、戦車砲の照準装置もダウンした。しかも、操縦コンピュータがダウンした戦闘機が、上空からすべての砲弾を積んだまま次々に落下してきた。墜落戦闘機のなかには市街のビルに激突して大爆発を起こすものもあった。
ゴジラとムートーの襲撃の前に、市街はかなり破壊されてしまった。
そんな頃合い、地中深くから雌ムートーが現れた。雌はすでに卵巣が開いて、腹に夥しい数の卵をぶら下げていた。産卵が間近に迫っているのだ。
雄ムートーはそんな雌に近づいて、いかにもやさし気に触手を伸ばし、雌に核弾頭を手渡した。それは、卵群の栄養源になるはずのものだろう。
雌はビル群のなかで地下空間を探し、産卵場所をつくり始めた。そして産卵をおこない、その近くに核弾頭を置いた。
軍の作戦本部は、ムーとの電磁パルスの影響を避けるために、サンフランシスコから――だいたい十数キロメートルほど――遠く離れた場所に設置された。
そこでステンツは、陸海軍や海兵隊の兵員を臨時に混成したタスクフォース・ティームを編成して、核弾頭の奪還作戦を指揮することになった。フォードも核弾頭も含む爆発物処理の専門家として参加した。
作戦目標は、ムートーの産卵場所を探索してそこから核弾頭を奪回し、起爆設定を解除することだ――プランA。しかし、起爆設定の解除ができない場合には、ただちに運び出してボートでできる限り沖合に運搬して起爆させる――プランB――ということになった。
産卵場所はサンフランシスコ市街の中心部と想定されていたが、そこまで接近するために、タスクフォース部隊は高高度からのパラシュート降下することになった。ジェット輸送機が電磁パルスの影響を受けないように、高度9000メートルを飛び、市街上空から部隊を降下させるということだった。
雨の多い湿潤なサンフランシスコ市の上空には分厚い積乱雲が立ち込めていた。視界が効かないその分厚い雲を突き抜けて降下する、非常に難しい作戦だった。
部隊の兵員たちは次々に輸送機から飛び出して、市街上空の分厚い雲海に突入していった。
その雲を突き抜けると、市街中心部ではゴジラとムートーとの闘争が繰り広げられていた。中心市街は破壊され瓦礫の海となっていた。