MUTOの雄
巨大な翅がある
MUTOの雌
翅はないが雄の3倍以上の大きさ
1999年、フィリピンで巨大地震が発生した直後、ミンダナオ島の露天掘り炭鉱の地下で古生代の生物のものと思しき巨大な爬虫類の骨格化石とそれに寄生したかのような繭群――あるいは卵かも――が発見された。それらの繭は強い放射能を帯びていた。
これらの繭を調査研究するため、多国籍研究機関モナークから2人の放射線生物学者がミンダナオ島に招聘された。ひとりは日本人の芹沢猪四郎、もうひとりは芹沢の助手のヴィヴィアン・グレアムだ。
節足動物ないし昆虫の遠い祖先のように見える繭群は、2つを残してほかはすべて化石化していた。2つのうちひとつは最近、繭中の蛹から成体化(成虫化)ないし羽化したらしい。鉱山の周囲の大地には、蛹から出た巨大な生物が大地を切り裂いて歩き、海に出た痕跡が残されていた。
最後のひとつの繭はアメリカに運ばれて研究対象とされたが、卵の放射線汚染の程度があまりに深刻で、研究施設では安全に観察できないということで、ネヴァダ砂漠ユッカマウンテン山中の地下にある核汚染物質の集中廃棄場(保管施設)に移された。
この巨大生物は、モナークによって Massive Unidentified Terrestrial Organism ――頭文字を並べて「MUTO(ムートー):未確認の陸生巨大生命体」と――名付けられた。
ところで、ユッカマウンテンの核廃棄物の集中保管施設は、オバマ政権のもとで長期的には安全ではないという理由で移転されることになったが、移転先は決まっていない。
その頃、日本列島の太平洋岸、とりわけ駿河湾沿岸地帯でも地震が群発していた。原発プラントも頻発する揺れに備えて、原子炉の安全管理に神経を尖らせていた。
このプラントに勤務するジョウ・ブロウディは、地震とは別の原因による振動を探知していた。それは近くの振動というよりも、音波を発するための物体の振動のように思われた。
ところで、この映画の制作陣は、日本の地理と社会の構造については正確に考証しなかったようだ。たぶん予算が足りなかったのだろう。
噴火の可能性のある富士の山麓に大規模な原子力発電所プラントがあり、しかもその周囲には東京並みの巨大都市「ジャンジラ市?」があるではないか。
この駿河湾岸の原発都市の描き方は「大笑い」だ。
というのも、
日本の原発プラント技術は、「加圧水型」設備に限定されていて、「沸騰水型」ではない。にもかかわらず、この映画では駿河湾沿いの原発プラントは「沸騰水型」設備になっていて、原発の核反応炉の周囲には巨大なドームキューポラ型の放熱壁がめぐらされているからだ。
「加圧水型」では、核反応炉容器の圧力を強くして、その冷却水は沸騰させず、加熱水を水蒸気発生装置に流し込んで水蒸気を発生させて、その勢いでタービンを回転させる仕組みになっているという。だから、キューポタ型の放熱装置壁はなく、原子炉建屋という強固な防護壁に覆われている。
ただし、冷却は核反応炉を冷やす水は完全閉水路にしておいて、熱交換器の2次側に海水を流し込んで炉の冷却水の熱エネルギーを吸収する仕組みになっている。その分、原発周囲の海水温がより高くなるという環境変化がもたらされることになる。
これに対して「沸騰水型」では、核反応炉を外気圧に開放して冷却水を直接沸騰させて、その勢いでタービンを回すようになっている。このプラントでは外気に熱が放散されるので、その分、プラント周囲の大気の温度が上昇することになる。
さて、フィリピンから北上した巨大生物は、ジャンジラ市の原発プラントの地下に住み着いて放射線を吸収していた。どれが発する音波が、ブロウディが探知した振動だった。
その生物ムートーは急速に成長して、原発炉心の放射線を直接吸収するようになった。そのため、炉心が破壊されてしまった。反応炉は暴走して溶融爆発を起こし、プラントは崩壊してしまった。
そのとき反応炉の検査点検の作業に当たっていたブロウディの妻サンドラを含む作業員全員は、爆発に巻き込まれて死亡してしまった。
当局は、ジャンジラ市の全住民を避難させ、原発プラントを閉鎖してしまった。それ以後、致死量の放射線量があるということで、ジャンジラ市は立ち入り禁止区域となり、警察によって監視されることになった。