プラント崩壊事故から15年後。
ジョウの息子フォードは、合衆国カリフォーニア州サンフランシスコ市に妻子とともに居住していた。フォードはアメリカ海軍爆発物処理隊の大尉だった。
ある日、日本の警察から電話が入った。要件は、彼の父親ジョウがジャンジラ市の立入禁止区域に侵入して逮捕されたのだが、取り調べ後に釈放するので身元引受人としなってほしいという要請だった。
ジョウは、原発プラントの崩壊事故は地震による炉心溶融が原因ではなく、発生源不明の特殊な音波をともなう振動のせいだと考えていた。そして、その音波と振動は、原発を破壊すできるほどに巨大な生物のものではないかと推定していたのだ。
ジョウは、原発事故の本当の原因を当局とモナークが隠蔽するために一帯を立入禁止にしていると見ていた。
そのため、15年前にその奇妙な音波や振動を追跡・記録したデータフロッピーを前の自宅から回収しようとしていた。そうすれば、妻の生命を奪った事故の原因を探り出すことができると考えていたのだ。
フォードは父親の考えが偏っていると思ったが、その説得を受けて、父親とともに密かに海からジャンジラ市に入り込んだ。すると、放射線量計は人の生存にまったく安全な数値を示していて、しかも、荒廃した街中を野犬の群れが元気に走り回っていた。
ということは、放射線量の濃度を理由に立入禁止措置を続けている当局はやはり何かを隠しているようだ。
ジョウは荒れ果てた旧自宅のなかでフロッピーを探し出して持ち出した。
ところが、2人が家を出ると警官隊がやって来て拘束し、2人を原発プラント跡地のモナークの研究施設に連行した。そこには芹沢とヴィヴィアンを含む研究者ティームと施設内で大がかりな作業に従事している集団がいた。
この施設内では、地下空間で得体のしれない巨大な生物を捕獲して、強い電磁力で拘束しながらその生物を観察研究していた。
その生物は――15年前にジョウが観測した――強い音波を周期的に発していたが、最近、しだいにその周期は短くなり、音波=振動が強力になっていた。
その生物は15年前にフィリピンのミンダナオ島から海中に出た巨獣ムートーだった。
ムートーは原発プラントの炉心を襲撃破壊して大量の放射線を吸収し、その後もの残された核物質を餌として与えられながら成長を続けていたのだ。
音声を発する感覚が短くなり強力になっているのは、ムートーが成長・成熟しているためだった。そして、今まさに生殖可能な段階に達していた。
ムートーはついに目覚め、人類による電磁力の束縛を打ち破り、施設を破壊して、生殖のために動き出そうとしていたのだ。
研究実験のための巨大なクレインが次々に倒されていった。ジョウは倒壊してきたクレインに圧し潰されて重体となってしまった。救出後、医療施設への搬送途中でジョウは息を引き取った。
モナークの人員の大騒ぎをよそに、ムートーはドーム施設の外に出たのち、背中の翅を広げて太平洋の彼方に飛び去っていった。向かった先で雌と出会うつもりなのだろう。
ムートーがときおり発する強力な音波は、はるか遠くにいるはずの雌を呼ぶ声であり、さらに雌雄が生殖のために鳴き交わす声だったのだ。
そのときのムートーの大きさは、体高が30メートル以上で、翅を広げると80メートルはありそうだった。
ところで、モナークはムートーとゴジラをめぐってこう考えていた。
古生代に地上の放射線濃度が高い時期が続いた。そのとき放射線を食べて成長繁殖する巨大生物ムートーが出現した、それを倒すためにゴジラも出現して、両者は生存闘争する天敵どうしだった。
その後、地上の放射線量は減衰したため、ゴジラもムートーも永い眠りについたが、20世紀半ばからの核兵器開発競争と原発産業の出現によって両種は覚醒することになったのだ。
モナークの見方によると、米ソの核兵器開発と核実験は冷戦構造が原因というよりも、ムートーやゴジラを滅ぼすためのものだったという。
人類が巨大怪獣の破壊活動から生き延びるために、核兵器を開発したというわけだが、いかにも核大国アメリカのハリウッドがセルフ・エクスキューズのために考えた論理に思われて仕方がない。