2014年版ゴジラ 目次
組み換えられたゴジラ神話
パラレルワールドのゴジラ
核超大国アメリカの意識…
核開発競争と「モナーク」
ムートー
原発崩壊
ムートー覚醒
ゴジラ、ハワイに出現
2大怪獣と人類
雌ムートー出現
核弾頭の運搬
サンフランシスコの混乱
ムートー産卵
核弾頭奪回作戦
人類の闘いと怪獣決戦
瓦礫だらけの都市残骸のなかで
ゴジラ神話の新展開へ
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風の谷のナウシカ

瓦礫だらけの都市残骸のなかで

  やはりアメリカ人が制作した映画だ。
  サンフランシスコ市の沖合数マイルの海上で核弾頭が爆発したにもかかわらず、平穏が戻った様子が描かれる。
  メガトン級の戦略核弾頭が爆発したのだから、サンフランシスコには「死の灰」が降り注ぐはずだが、そういう危難は描かれない。
  住民たちがこの危険極まりない死の灰やら残留放射線やらから避難することはないのだ。
  つまり、彼らは戦争被爆したことがないので、広島や長崎の投下された原爆の数千倍の核エネルギーと破壊力をもつ核分裂が起きたことについて、あまりに無頓着なのだ。
  核兵器の破壊力についての分析や考証はなされなかったのか、それとも核兵器の破滅的な破壊作用を描くのは、アメリカでは完全にタブーなのだろうか。
  もしそうなら、状況設定を変更すべきだった。しかし、このゴジラ映画はこんな「非現実的な状況」を描いている。

  もっとも、日本のゴジラ映画でも、カドミウム弾炸裂後の新宿駅近辺にやじ馬が多数押しかける様子を描いているから、リアリティのない「甘すぎる状況設定」は《ファンタジーとしてのゴジラ映画》に「つきもの」なのかもしれない。


  ムートーが死滅し、ゴジラが倒れて動かなくなったということで、瓦礫に埋まった市街では人びとが「戦後処理」にあたっていた。
  各地区で軍隊や消防隊、警察隊が遭難者の救出・救護に駆け回っていた。
  軍や警察の管理下で、巨大な球場に救護所・連絡本部を設けて、避難者を集合させ、医療範囲夜怪我人の手当や行方不明者捜索情報の集約などをおこなっていた。
  フォードも息子や妻との再会ができた。生き残った者たちの安堵感が前面に出ている。
  生活と生存環境を破壊された人びとの悲惨さは描かれない。
  瓦礫に埋まった大都市の廃墟のなかで、これから人類=アメリカ市民による復旧・復興がこれから始まるのだろう。

  ところが、あたかも死んだように倒れてしていたゴジラが目を覚まして立ち上がった。ゴジラは相変わらず人類の存在をまったく無視して、都市残骸のなかを地響きを立てながら動き出し港湾に到達し、そのまま海のなかに消えていった。

ゴジラ神話の新展開へ

  ハリウッド版ゴジラ映画は、1998年版もこの2014年版も、ともに新しい「ゴジラ発生起源」パラダイムを提示した。発生起源に関する神話伝説を組み換えるということは、ゴジラ事態の存在様式を新たなものに設定し直すということでもある。
  1998年版では、海イグアナがフランスの核実験で突然変異で巨大化・凶暴化したという発生起源伝説が語られた。2014年版では、古生代から続いてきた2大怪獣の対決という神話が語られた。

  日本版でも1991年の『ゴジラ対キングギドラ』でゴジラの発生起源の物語を組み換えた。1954年のビキニ水爆実験を原因とする海獣の突然変異によってゴジラが誕生したという神話は、それ以外の日本版では暗黙の前提として引き継がれていたように思われる。
  ところが、その後もいくつか制作された日本版のシリーズが先頃、一通り完結したことから、ゴジラ誕生神話を自由に組み換える条件ができたということなのだろう。

  昨2016年、私は『シン・ゴジラ』を劇場で観た。そこではやはり、ゴジラ発生起源神話はすっかり従来のものとは様変わりしていた。
  いずれこのサイトでも、『シン・ゴジラ』の物語の流れと状況設定について考察する計画だ。

  今回、2014年の『ゴジラ』を考察しての結論は、やはり核兵器に関する姿勢はアメリカという政治的・社会的土壌では腰砕け気味になるのは仕方がない、ということになる。もっとも、ファンタジー映画について、状況設定についてあれこれ語っても無意味かもしれない。好みの問題にすぎないのだから。
  ただ私個人の好みとして言わせてもらうと、ゴジラやムートーに対して人類が軍事的に対処するさいに、この物語のように「核弾頭」を持ち込む必要はなかったはずだ、という思いはある。ゴジラ物語を面白くするために核兵器を持ち込む必要があったのだろうか、という疑問だ。
  それとも、ゴジラの存在は核兵器と切り離して物語ることはできないのだろうか。だとすると、アメリカ映画はそれを語る条件がないということなのかもしれない。

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