1970年代はじめのブリテン領北アイアランド。
アイアランド人の若者、マーティン・ファロンは、IRAの「旅団」と呼ばれる武装組織に属する名うての暗殺者だった。冷酷無比に標的たちを仕留めてきた。
今回の作戦は、ブリテン陸軍特殊部隊のパトロール班を道路に仕掛けたトラップ爆薬でせん滅することだった。
ある晩秋の日の夕方近く、牧草地のなかを走る道路をブリテン陸軍のパトロール隊の車両が2台走っていた。その車の動きを、遠くから見詰めるIRAの武装旅団のメンバー3人がいた。
1人の青年は、道路の両端を結ぶワイヤーを張った。そのワイヤーは、道路の両側の生垣の地面のコンクリート製の排水管に引き込んであった。排水管のなかには、強力な爆薬があった。その起爆装置の信管にワイヤーは結びつけられた。
走って来た車両がワイヤーを引っかけた瞬間に爆発するようになっていた。
マーティン・ファロンとマリガン・ドカーティは、銃を手にして、そのトラップの設置を離れた丘から眺めていた。爆薬を仕掛けた若者は、牧草地のトラクターに乗りこんで隠れた。
ブリテン軍の車両がゆっくりと近づいてきた。
ところが、トラップまであと100メートルくらいのところで、後ろから来た白いスクールバスが2台の軍用車両に追いついた。学校帰りの子どもたちを送るためだ。軍の車両は減速し道を譲って、スクールバスを先に行かせた。
その直後、トラップ爆薬が炸裂した。スクールバスは炎上大破して、大勢の子どもたちが死傷した。何人もの子どもたちが死んだ。
ブリテン軍兵士たちは、瞬時に迎撃応戦態勢をとった。
マリガンはただちに退去を指示した。
だが、予想外のできごとに度を失った若者は、遮蔽物のない草原を走ったためにただちに射殺されてしまった。
マーティンは、逃げようとはせずに、ただ茫然と黒煙を上げるスクールバスの残骸を眺めていた。マリガンは退却した。だが、マーティンは丘の上に立ちつくしていた。
マリガンは、逃走用の乗用車で待ち構えていた仲間とともに逃げ去った。
ブリテン軍が接近してくる。しかし、炎上するバスの黒煙が、軍兵士たちからマーティンの姿を遮蔽した。いつしか、マーティンの姿は消えていた。