死にゆく者への祈り 目次
追いつめられた暗殺者 U
原題と原作、そして作者
見どころ
あらすじ
戦列からの離脱
ロンドンのマーティン
  アイリッシュ社会
八方ふさがりのマーティン
居合わせた神父
暗殺者の告悔
渦巻く敵意
孤高の精神
ミーアンの焦り
マリガンとの再会
惨劇の始まり
死にゆく者への祈り
2つの物語の対照
作品に見られる国民性
おススメのサイト
異端の挑戦
炎のランナー
アイアランド紛争関連の物語
黒の狙撃者

暗殺者の告悔

  今、ダコスタ神父のもとにはアンナという名の姪が身を寄せていた。盲目の少女で、ダコスタ以外には身寄りがなかった。
  ダコスタは礼拝のために着替えながら、アンナに墓地で目撃した殺人事件のことを語っていた。そして、なぜか自分が殺されなかったことも姪に語った。
  教会ではこれから告悔(懺悔)が始まろうとしていた。ダコスタ神父による聴悔を求めて信者が数人礼拝堂に集まっていた。神父は聴悔室に入り、信者の告悔を待った。
  その様子をマーティンが柱の陰から見ていた。告悔が始まると、マーティンは一番後ろの座席に座って順番を待った。やがて、彼の前には誰もいないくなった。

  マーティンは告悔室に入った。そして、おもむろに神父に殺人の罪を告悔し始めた。話を聞くうちに、ダコスタは、隣のボックスの男が墓地でクラスコを射殺した若者だと気がついた。
「何ということだ」と憤慨して、ダコスタ神父は仕切り窓を開けて、マーティンを非難した。つに告悔室の扉を開けて、若者を引きずり出した。だが、マーティンは反論した。
「神父、私は告悔したのです。その内容は、神以外にあなたは告げてはならないのですよ。
  あなたは、犯罪捜査と裁判の目撃証言をすることができないはずだ。告悔の秘密は守らなければならない」
「暗殺者には教会の信者の資格はない」
「だが、俺はカトリック教徒だ。俺は殺人の事実を認める。そして、神の許しを乞うつもりはない。このあとのことは、神にゆだねたんだ」

  怒りと衝撃に震えるダコスタだったが、あの暗殺者の言うことは間違っていないと認めるしかなかった。
「だが、私は君の罪を神に仲介した。神はもはや介在している。
  だが、なぜ目撃者の私を殺さないのだ」と神父は問い詰めた。
「もう殺しには飽きたんだ。あなたのことは忘れた。だから、もう安全だ」とマーティンは言って立ち去った。


  そのままマーティンは、ジャック・ミーアンが経営する葬儀会社に行った。そこで、彼はジャックとビリーの兄弟に経過を告げた。
「あの牧師は事件のことを話すことはない」と。
「殺したのか」とミーアン兄弟。
「いや、殺しはしない。俺は告悔したんだ」
  ビリーはあきれた。
「いや、カトリック教会では告悔の秘密は守らなければならないんだ。だが、神父を信じられるのか」とジャック。
「ああ、大丈夫だ。彼には指一本触れさせないぞ、いいか。
  仕事は終わった。5万ドルとパスポートをくれ」

  このあとの交渉は、ジャックが遺体処理の仕事をしながらのものになった。彼は、レイプされて殺された若い女性に死化粧――顔などの傷を見えないように化粧で覆うこと――を施しながら、マーティンと話し合った。ギャングのボス、ジャックは死者への最大の敬意を払う仕事をしながら、自分が命じた殺しの後始末の話題を語っているのだ。
「あと何日かしたら、君をアメリカ行きの船に乗せる。その船に搭乗したときに、金とパスポートを渡す。
  それまで、私が用意する隠れ家にいるんだ」とマーティンに伝えた。
  そして、弟に「ファロンをジェニーの家に案内するんだ」と命じた。

前のページへ | 次のページへ |

総合サイトマップ

ジャンル
映像表現の方法
異端の挑戦
現代アメリカ社会
現代ヨーロッパ社会
ヨーロッパの歴史
アメリカの歴史
戦争史・軍事史
アジア/アフリカ
現代日本社会
日本の歴史と社会
ラテンアメリカ
地球環境と人類文明
芸術と社会
生物史・生命
人生についての省察
世界経済
SF・近未来世界