死にゆく者への祈り 目次
追いつめられた暗殺者 U
原題と原作、そして作者
見どころ
あらすじ
戦列からの離脱
ロンドンのマーティン
  アイリッシュ社会
八方ふさがりのマーティン
居合わせた神父
暗殺者の告悔
渦巻く敵意
孤高の精神
ミーアンの焦り
マリガンとの再会
惨劇の始まり
死にゆく者への祈り
2つの物語の対照
作品に見られる国民性

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惨劇の始まり

  マリガンと訣別したマーティンは、教会を訪れた。そして礼拝堂のオルガンで「葬送行進曲」を演奏した。それは、自分自身への葬送曲だった。死んだ(失われた)理想と、死んだに等しい自分の魂への音響による墓標だった。。
  あまりに美しく沈鬱な響きを聴きつけたダコスタは礼拝堂に行ってみた。やはりマーティン・ファロンが演奏していた。神父はそのときマーティンの「魂の救済」を試みようとした。
「君はこのところ、ずっとこの教会に来ている。救いを求めているのだろう。私は君を救いたい」
「無駄だ。この世のすべては虚しい。理想も人生も…」
「マーティン、君は罪を認めて神に許しを乞いたまえ。そうすれば、精神の平穏が得られる」
「俺は自分のしたことを認めている。その罪業から逃れるつもりはない」
  というわけで、論争が始まった。
  言い合いを聞きつけて、アンナがやって来た。 「マーティン、そんな恐ろしいことを言わないで」と懇願した。

  マーティンは、アンナの願いを聞き入れて、論争をやめてアンナを教会の近くの遊園地に連れ出した。彼女を観覧車や遊具に乗せてやった。
  夜になると、マーティンはアンナを教会に送り届けた。別れを告げると、アンナは、今夜はダコスタが病院へ出かけているので、夜を一緒に過ごしてほしいと言い出した。というわけで、マーティンはアンナと愛を交わすことになった。
  真夜中過ぎ、マーティンはアンナの部屋をそっと抜け出して遊園地まで歩いた。アンナと愛し合うようになったことで、虚無感に押しつぶされそうになっていたマーティンの心に、生き続けてみようという意思が湧いてきた。


  その頃、ジャックの弟、ビリーがアンナに襲いかかろうとしていた。ビリーは、抑制のきかない性欲を持つ異常者だった。今は、盲目の娘を襲いレイプする経験を楽しみたいと思いに取りつかれていた。
  ビリーはアンナをわざと脅して逃げ惑わせることを楽しんでいた。ついに、彼女を闇に包まれた部屋に追い込んだ。ところが、アンナは裁ちバサミをつかんで振り回すうちに、襲いかかるビリーの腹を突き刺してしまった。ビリーは(たぶん)脾臓を破られて、ほぼ即死した。
  そこに異常を察知したマーティンが駆けつけて、アンナを救い出した。マーティンはビリーが即死状態であることを見てとったが、アンナには「ビリーは逃げていった」と告げた。とにかく安心させて、ショック状態から抜け出させてベッドに寝かせようと思ったからだ。

  ようやくアンナを寝かせつけたマーティンは、階下に降りてきた。そこに、病院からダコスタが戻って来た。荒れている室内を見て、何があったのかをマーティンに聞いた。マーティンは、ビリーがアンナを襲ったことを告げた。そして、ビリーが死んだことも。
  あとのことをダコスタに任せて、マーティンはビリーの死体を「始末」しに出かけた。ミーアンの火葬場で灰にしてしまうつもりだった。火葬の方法はジャックから教えられていた。

  さて、マーティンを殺すことができなかったマリガンは、ホテルの自室で酔いつぶれていた。そこに女性の暗殺者ショバーンが入ってきた。彼女は素早く拳銃を構えると、ベッド上で茫然自失状態のマリガンの眉間を撃ち抜いた。IRA指導部からの指示だった。裏切り者を始末できなかったマリガンを処刑したわけだ。
  系統的に組織化されたテロリズムが横行する背後では、必ず「政治」がはたらいている。若者たちをテロの担い手として送り出す組織の幹部たちは、自分たちの権力や利権の拡張のためにテロの実行者たちを操るのだ。世の中に絶望して自暴自棄になっている若者をマインドコントロールして狂信的な目的を刷り込んだうえ、彼らを「捨て駒」として利用するのだ。幹部たちは、若者たちを死地に送り込むか、さもなくば役に立たなくなった道具として葬るのだ。
  国家が発動する戦争も、究極的には同じ本質をもつのではなかろうか。「理想に殉じる」だの「国益のため」だのという美名のもとに、多数の若者を死線に晒すのだから。

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