ジェニーはアッシュブロンドの美女でミーアン・ファミリーの高級売春業のトップスターだった。
マーティンがジェニーの家に着いたとき、彼女は客であるロンドン市会の大物議員を愛想たっぷりに送り出すところだった。ドアを閉めると、彼女はため息をついて顔をしかめた。嫌な客をようやく追い出したようだ。
そこにビリーが声をかけた。
「日曜日までこの男を預かってくれ」
と言いながら、ビリーはジェニーに近寄り、抱きよせ、自分の玩具にしようとした。ジェニーは嫌がった。それでも、ビリーは続けた。
「おい、やめろよ」とファロンが止めた。
だが、逆にビリーは逆上して食ってかかった。
「俺はなあ、ジャック・ミーアンの弟なんだ。だから、何でも好きなことをやれるんだ。文句あるか!」
仕方なくマーティンは、ビリーの耳たぶをつかむと、そのまま扉の外に放り出した。無様な姿をさらしてしまったが、暴力沙汰に関しては、「虎の威」を借りているにすぎないビリーは一人ではIRA一番の殺し屋には手が出せない。ギャングのボスの弟として、界隈では好き勝手に振る舞ってきた、脳味噌の足りない男にとって、これ以上の屈辱はなかった。怒りまくって、ビリーは出ていった。
葬儀社に帰りついたビリーは、腹立ち紛れに兄にマーティンへの悪口と疑いをまくし立てた。ジャックは弟を宥めて言った。
「神父とファロンのことは、俺に任せておくんだ。いいな」
その頃、マリガンはIRAの地区拠点となっているバーにいた。ショバーンとともに、夫婦という外観を取り繕っていた。
IRAは「マーティン・ファロンに関する情報を高く買う」という風評をこの地区一帯に流していた。だから、この店にいれば、マーティンの居場所についての情報が入ってくるはずだ。
ちょうどそんな電話が入った。店主が受話器を取って相手の話を聞いた。そして、マリガンに伝えた。
「相手は、港の船にいる。そこで、情報をくれるそうだ」
マリガンは、港に停泊してる貨客船に乗り込んだ。待っていた男は、ミーアンの葬儀社の支配人だった。彼は、葬儀社で葬儀料金を水増しして客の老婆に請求した。そのことがジャックに露見して、両掌を千枚通しで突き刺されるという制裁を受けたのだった。金が要り用だったのだ。
そこで、多額の現金収入とミーアンへの意趣返しの両方が達成できるということで、マーティンの情報をIRAに売ることにしたのだ。
その男は大金と引き換えにマーティンの居場所を書いた紙片を渡した。それを見たマリガンは、「そこには行かん。俺が言う場所にマーティンを呼び出せ、いいな」と命じた。