オークランドの北方にある、ある町。
その朝、デイヴィ・ダナー少年は、ベッドから起きようともしない母親ローラのために朝食をつくり、掃除と洗濯をした。そして、ローラに朝食を食べさせようとした。だが、ローラは食事を受けつけなかった。そのくせ、デイヴィに食事前のお祈りだけは厳格に強要した。
ローラは狂信的なまでに信心深かった。毎日、食事前や就寝前の祈祷をデイヴィに必ず求めていた。だが、聖書や教義が要求する勤勉さや家族(デイヴィ)への慈しみ、女性としての節操などには、まるで無関心だった。要するに、プロテスタンティズムは、廃人になりかけていた母親の逃げ場(現実から逃避する麻薬)にすぎなかった。怠惰とふしだらが彼女の専売特許だった。
祈祷書には読み耽るが、その内容を実行することにはまるきり無関心だった。つまり偏執あるいは妄執にすぎなかった。
彼女は重度のアルコール依存症で、デイヴィの父親との離婚後、定職にもつかず、出入りする男=愛人を取っかえ引返して金を引き出して、生活していた。だが、アルコール中毒がひどくなってしまい、男たちも寄りつかなくなってしまった。最近、ローラはひどい鬱状態に陥り、ベッドから起き上がろうともしなくなっていた。
母親を心配したデイヴィは、もう何日も学校を休んでいた。今朝も、デイヴィの様子を心配した小学校の校長から電話があった。デイヴィは、とっさに「母親が死亡したので、当分休む」と嘘を言って、電話を切った。
ところが、母親は突然車で出かけると言い出した。そして、デイヴィに飲むようにと薬を何錠か渡した。睡眠薬だった。デイヴィは飲んだ振りをして、洗面所で薬を吐き出した。鬱病が昂じて何もかもいやになったローラは、デイヴィを道連れに自殺するつもりだった。
ローラは車にデイヴィを乗せて走り出したが、鉄道線路を渡る踏切のなかに車を入れると、停車してしまった。ローラはすでに朦朧としていて、意識を失いかけていた。
やがて、特急列車の汽笛が聞こえてきた。列車はどんどん接近してきた。そして、踏み切りの向こうのカーヴに差しかかった。
デイヴィは恐ろしくなって車から出て、母親を連れ出そうとしたが、意識を失っていて無理だった。デイヴィは泣き叫びながら、踏切から飛び出した。