+--
さて、いよいよ事故調査委員会による特急列車の運転士・乗務員に対する審問の日がやって来た。
前日、デイヴィはトムに委員会に出向いて証言してもいいと言った。
「母は自殺しようとしていた。トムは運行規則どおりに行動したのは明らかだから、母の死についてトムの責任を追及することは望まない。そう証言するよ。だから連れて行ってよ」
「気持ちはわかった。でも、君を家に泊めていることが知られたら、その方の責任追及が重くなる。君は家にいるんだ、いいね。それに、俺はあのとき間違った判断はしていない。それについては確信を持っている」というのがトムの返答だった。
審問の順番は、オーティス・ヒッグズが先だった。トムは「自分で考えたとおり、ありのままに話せ。俺もそうする」とオーティスに伝えた。オーティスは、カーヴに刺しかかっていても、急制動は可能だったと思っていたのだ。彼は機関助手で、運転についての細かな規則や手順(マニュアル)については、まだ理解が不十分だから仕方がない。
トムは自分の審問の番になったとき、やはり首尾一貫して「運行規則どおりに行動した」と答えた。答えるときに、少し間をおき、あの瞬間を回想してみたが、客観的に判断して、やはりあのように列車を操作するしかなかったと結論した。
委員たちは「いまもう一度あの場面に出会ったとしよう。君はどのように行動をするかね」と訪ねた。
トムの答えは「やはり、同じ操作をします」だった。
審問を終わっての委員会の結論は、「トムには何らの過失がない。運転業務に復帰すべし」だった。
家に帰ってメーガンに委員会の結論を伝え、運転に復帰できると語ると、彼女は大変喜んだ。デイヴィも大喜びだった。
ところが、この幸せな「家庭環境」をようやく手にしたにもかかわらず、メーガンの容体は悪化していった。
トムは、デイヴィが来た翌日、「デイヴィには君に病気のことをどうやって伝えようか」とメーガンに相談していた。そのときメーガンは、「母親の死に直面してデイヴィはひどく動揺しているわ。そこにもってきて、また私の末期癌のことを伝えるのは酷よ。だから、しばらくは教えないでおきましょう」と答えた。
だが、楽しそうに過ごしてはいたが、メーガンは日を追って苦しそうに見えるようになっていった。ある朝、ついにメーガンはベッドから起き上がれないほどに消耗ししまった。
トムは付き切りでメーガンを介護し、薬を飲ませた。そして、巡回看護ヘルパーを呼んだ。まもなく、メーガン専属の訪問看護師、スーザン・ガルシアがやって来て、点滴や必要な処置を施した。それで、ようやくメーガンはいく分持ち直した。
だが、これでメーガンがひどい病気で、明日をも知れない容体だということが、デイヴィにもわかってしまった。トムはデイヴィを呼んで、メーガンの骨癌が末期状態になっていることを伝えた。