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レイルズ&タイズ 目次
かけがえのないパートナー
原題について
見どころ
あらすじ
やり場のない悲しみ
デイヴィ
衝突事故
孤立無援
追いつめられた夫婦
孤児の来訪
かりそめの家族
かりそめの家族
デイヴィ捜索
事故調査委員会の結論
忍び寄るメーガンの死
自分を責めるデイヴィ
メーガンの最期
トムの決意
ケヴィン・ベイコンの演技の冴え
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クイックシルヴァー
医療サスペンス
コーマ
評  決

かりそめの家族

  メーガンはすっかりデイヴィが気に入ってしまった。それに、彼の家庭環境のことも実は知っていて、深く同情を寄せていた。というのも、彼女は事故の次の日に、ローラとデイヴィの住居を訪ねて、母親の事情を知ったからだ。
  メーガンは、ローラがなぜ自殺を望んだのか、何がローラをトムの運転する列車に轢かれるように仕向けたのかを知りたかったのだ。
  ローラとデイヴィの住居には誰もいなかった。だが、隣の世話好きで話好きの老婦人から、ローラとデイヴィの母子の様子を聞きだすことができた。ローラは怠惰で自堕落な女で、デイヴィの父親が出て行ってしまったのち、男出入りが激しく、そういいう男たちに依存してどうにか暮らしていたこと。アルコール依存症で家事仕事はすべてけなげにデイヴィがまかなっていたこと、などを。

  メーガンはトムに、その夜はデイヴィを家に泊めてやろうと言い出した。トムは反対した。トムは事故後から自宅謹慎を言い渡されていて、しかも事故調査委員会の審問終了までは事故関係者――とりわけ死亡したローラの家族――と会うことは許されていない。そんなことをすれば、重いペナルティを課されても仕方がない。
  だが、メーガンは「私は旅行にいかない。その代わり、デイヴィを家に止めてやって。交換条件よ」と主張した。トムは折れた。トム自身も、会社の規則は心配だったが、デイヴィには何か惹かれるものがあった。


  というのも、トムもまた母子家庭育ちで、父親の顔を知らずに育ったのだ。小さい頃から、やはり熱心な鉄道ファンで、小さいときこっそり家を出て1人で列車に乗り込んで旅をしたこともあった。
  一方、メーガンは母親となる経験をできないまま人生を終えてしまうことに、深い悲しみを感じていた。トムと結婚して19年間。だが、大きな鉄道会社の運転士であるためか、トムはいくども転勤を繰り返して、落ち着いた生活を送れなかったせいか、子どもをもうけることができなかった。
  そこに現れた孤独な境遇の少年。メーガンの母性が目覚めたのかもしれない。  メーガンは、デイヴィの世話をすることに生きがいを感じ始めた。

  というわけで、当初は一晩だけの滞在のつもりだったが、デイヴィは居続けることになった。3人揃っての食事には、心温まるものがあって、メーガンはもちろん、トムもこの関係を捨てがたくなった。
  メーガンにとってデイヴィという関心=愛情の向け先が存在することで、トムはかなり楽になった。デイヴィはトムとメーガンの緩衝材であると同時に接着剤でもあった。
  メーガンがデイヴィとの会話や彼の世話にかかり切りになっているとき、トムは倉庫の鉄道模型ジオラマに戻ることができた。壊してしまったところを修復することにした。作業が始まってしばらくして、デイヴィがやって来た。ジオラマを一目見るなり、デイヴィはすっかり魅せられてしまった。
「すごいや。すばらしい!」と見とれていた。
  その後、トムがジオラマの修復作業に取りかかると、デイヴィが必ずやって来るようになった。デイヴィは、そのときも母親からもらった機関車模型を手にしていた。そして、ジオラマや模型鉄道のレイルや運行装置を見るまなざし。熱心な鉄道ファンであることがわかる。

  トムはデイヴィに提案した。
「どうだい、ジオラマも修理を手伝うかい」
「もちろん!」デイヴィは飛びついた。
「それじゃあ、その機関車を向こうの台に置いてきて。それから、これを手伝ってくれ」
  トムはデイヴィにジオラマ修復の作業を手伝わせることにした。
  デイヴィはジオラマの景観をもっとよくしようと提案して、工夫して材料をつくった。無心になってジオラマづくりに没頭している。気づまりな母親との生活のなかで、あるいは悲惨な現実から逃れるために、デイヴィは想像力豊かな子どもになったのかもしれない。そんなデイヴィを眺めたトムは、自分にも子どもがいたら、こんなふうにいっしょにジオラマづくりをしただろうか、考えた。
  やがてトムは、デイヴィの機関車模型に電動モーターを組み込んで、車輪をジオラマの軌条に合わせた幅に調整した。そして、ほかのいくつもの列車とともに、ジオラマの風景のなかを軽快に走らせた。デイヴィは夢中になって見ていた。

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