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ところが、里親のもとから逃げ出したデイヴィは、警察による家出少年探索の対象になっていた。児童保護司による通報と捜査・保護の依頼を受けてのことだった。
ロス警察の女性刑事、アン・クレインは、デイヴィが列車でロスにやって来たことをつかみ、少年の足取りを追っていた。そして、デイヴィがトムの住所を聞き出した車掌から、デイヴィはトムの家を探していたようだという情報を得た。
翌日、アン・クレイン捜査官は、トムとメーガンの家を訪れた。
デイヴィが、2人に匿われているのではないかと考えたのだろう。
警察の車が来たのを知ったトムとメーガンは、デイヴィを隠すことにした。そして、メーガンは「この場は私に任せて」と2人を奥の部屋に追い立てた。その直後、アン刑事はメーガンにデイヴィ少年捜査の件で家のなかを調べさせてほしいと申し入れた。
メーガンはアンをドアから招き入れた。
アン刑事はリヴィングやキッチンを調べていたが、最近、壁のペイントを塗り替えた部屋を見ていぶかしがった。
「ええ、先頃、トムが私のために塗り替えてくれたのよ。この部屋で私が過ごしやすいように。私は末期の骨癌なの…こうしている今も、立っているだけでひどい気分なのよ」
アンはメーガンの顔色と衰弱が目立つ身体の風貌を見て、疑う理由はなさそうだと思った。
警察の捜査の手は去った。
だが、児童保護司のロザンナもやはり同じ疑惑を抱いて、トムとメーガンの家を見張っていた。そして、トムとメーガンがデイヴィを家に滞在させていることが判明した。
ロザンナが見張り続けていると、トムとデイヴィは凧を持って近くの公園に向かった。ロザンナは車に乗ったまま後をつけていった。
公園に着くと、2人は凧揚げを始めた。トムはデイヴィをとても大事にしているように見えた。そして何より、デイヴィがこんなに楽しそうにしている姿は、ロザンナはこれまでに見たことがなかった。
トムとメーガンの夫婦がデイヴィを違法に匿っていることを警察に通報しようと、ロザンナは携帯電話を手にした。が、実の親子のように楽しそうに遊んでいるトムとデイヴィの姿を見て、ロザンナは携帯電話をしまった。
違法だが、トムとメーガンこそが、まさにデイヴィにふさわしい理想の里親なのだ。彼らにデイヴィを預けておけば大丈夫だと判断したのだ。
なかなか粋なシーンである。
杓子定規に法手続きを当てはめて、デイヴィはミスマッチの里親に預けられ、悲惨な環境に陥ってしまった。そこを飛び出したデイヴィは、トムとメーガンのもとで、違法だが、あんなに幸福そうに暮らしている。だから、今度は杓子定規に法律を当てはめることはしない、と。