『スターウォーズ』シリーズは、各エピソードの物語も面白いが、物語群の全体が想定している状況設定、つまりその《世界観=宇宙観=文明観》がじつに興味深い。なにしろ巨大な銀河系全体にまたがる文明システム・世界システムが想定されているのだから。
その大銀河宇宙の文明システムの内部では、時代ごとに共和政とか帝国とかのレジーム権力構造が構築されていて、さまざまな勢力が戦争や貿易などという形で権力闘争や利権・権益闘争を繰り広げている。つまりは、私たち地球人類の現代文明のありようを投影した宇宙世界観が背景に想定されているのだ。
それ自体としては描かれていない『スターウォーズ』のコズモロジーはどういうものなのだろうか。それぞれのエピソードのあちらこちらに散見される宇宙観・世界観・文明観の断片をつつき回して分析しながら、銀河世界のイメイジを好き勝手に構想してみよう。
これまでに一般公開された『スターウォーズ』シリーズのエピソードは7作品ある。
これらを原題で公開年代順に並べてみよう。
◇ Star Wars:Episode W: A New Hope, 1977 (新たな希望)
◇ Star Wars:Episode X: The Empire Strikes Back, 1980 (帝国は逆襲する)
◇ Star Wars:Episode Y: Returne of the Jedi, 1983 (ジェダイの帰還)
◇ Star Wars:Episode T: The Phantom Menace, 1999 (恐るべき妖異)
◇ Star Wars:Episode U: Attack of the Clones, 2002 (クローンたちの襲撃)
◇ Star Wars:Episode V: Revenge of the Sith, 2004 (シス族の報復)
◇ Star Wars: Episode Z: The Force Awakens, 2015 (フォースは目覚める)
これらをエピソードの時系列順に整理すると、つぎのとおり。
◇ T: The Phantom Menace, 1999 (恐るべき妖異)
◇ U: Attack of the Clones, 2002 (クローン軍団の襲撃)
◇ V: Revenge of the Sith, 2004 (シス族の報復)
◇ W: A New Hope, 1977 (新たな希望)
◇ X: The Empire Strikes Back, 1980 (帝国は逆襲する)
◇ Y: Returne of the Jedi, 1983 (ジェダイの帰還)
◇ Z: The Force Awakens, 2015 (フォースは目覚める)
舞台となっている銀河文明システムのレジームや権力構造の変遷という視点で眺めると、次のような大河歴史物語になる。『平家物語』のような栄枯盛衰が繰り返す長い宇宙オペラだ。
数万年も続いた銀河システムの連邦共和政レジームは、そのもとで各地で利害の対立や紛争、小競り合いが繰り広げられるようになってしだいに弛緩・動揺し、崩壊していく。共和政レジームの守護者であるジェダイの奮闘にもかかわらず、紛争や小競り合いはどんどん大規模化し、ついに全銀河システムを巻き込むほどの戦争に拡大してしまう。
銀河連邦は、覇権を握ろうとするいくつかの勢力に分裂し、抗争し合うことになった。ついにはシス派の指導者が牛耳る帝国が台頭し、元はジェダイだったダースベイダーを帝国軍の最高指揮官として銀河全体を支配するようになる。その覇権に抵抗する共和派の反乱蜂起が続発する。主流派ジェダイは共和派を支援して帝国に挑むことになった。
帝国マスターの命令でダースベイダーは自らの血を受け継ぐ双子の姉弟――レイア王女とルーク――を探し求め、帝国の陣営に加えようとする。
やがてルークはジェダイとして成長し、共和派反乱軍の守護者として帝国とダースベイダーに戦いを挑み、打ち負かす。しかし銀河システムに平和は訪れることはなく、帝国に代わって覇権を握るレジームが出現する。
ここでは、全7作シリーズを物語のはじめから終りまで――エピソードTからYまで――年代順を追って、この一連の物語が繰り広げられる銀河世界の概要や特徴を描き出すことを目標とする。つまり、全体としてどのような宇宙世界観・歴史観が描かれているのかを検討することになる。
この目標のため、映像物語に登場していなかったり、実際に描かれていなかったりしても、出てくる事件や事象が前提=予定するはずであろう状況や背景の断片を分析し勝手に想像することにする。
ところで「コズモロジー: cosmology 」(英語)あるいは「コスモロギー: Kosmologie」(ドイツ語)とは、ある内的な秩序を持つひとまとまりの宇宙=世界についての理論や思想のことで、宇宙論・宇宙観とか世界論・世界観とも訳される。全体的・統一的な秩序を備えた宇宙の構成原理に関するイメイジだ。
この用語は、古代ギリシアで産声を発しその後、中世のヨーロッパで洗練されたもので、その頃には古いキリスト教的世界観によって、神が創造したこの世の中――宇宙でもあり世界でもある――に関するメタフィジーク研究を意味するようになった。
ここでは宇宙世界観とは、『スターウォーズ』の舞台となった遠い銀河系の文明システムの仕組みや特徴についての見解を意味する。つまり、その銀河の宇宙論であり世界システム論であり、文明論である。つまりは論理の遊びである。
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