この宇宙オペラ大河物語の最大の主人公はアナキン・スカイウォーカー=ダースベイダーということになるだろう。「スターウォーズ」シリーズのうち6つのエピソードの主人公が、アナキン・スカイウォーカー=ダース・ベイダーである。
アナキンは母親のシミとともに、惑星タトゥーインでケチな商人の債務奴隷としてみじめに暮らしていたが、ジェダイ史上でも稀なほどの高いフォースの資質を備えていた。やがて、ジェダイマスター・クィガンに見出されて首都惑星コルサントに連れられていき、ジェダイとしての訓練を受ける。こうして、ジェダイの訓練生=パダワンとなる。
だが、クィグィンは暗黒卿秘蔵の弟子ダース・モールとの戦いに敗れて殺されてしまった。そのため、アナキンはクィガンの弟子、オビワン・ケノービを師としてパダワンの修練を続けることになった。
飛び抜けた才能・資質を備えたアナキンは、ジェダイ評議会(ジェダイマスターの集合体)の期待と懸念を集めていた。
というのも、ジェダイの光明面と暗黒面の闘争をめぐる伝説があったからだ。
昔からのジェダイのあいだでは、いつの日にか天才的なジェダイが出現して、やがてフォースのダークサイドの脅威を根絶するという予言が言い伝えられてきた。アナキンはその候補とみられるけれども、これまでに飛び抜けた力を備えたジェダイのなかにはダークサイドの魅力の虜になった者が多かったからだ。
やがて、アナキンは頭角を現し若いジェダイのなかでは最高の力量を持つジェダイに育った。だが、ケノービは、アナキンの素直すぎて過敏な性格を懸念していた。
それにしても、才能にあふれたアナキンはケノービの指揮下で、つねに一番困難な任務を課される立場にあった。その1つが、惑星ナブーの女王――といっても共和政による女王で、住民の選挙で選出された地位で大統領と称してもいいだろう――パドメ・アミダラの護衛の任務だった。
パドメは、アナキンが10歳にも満たない頃に出会っていた。クィゴンの任務に随行していたことから。アナキンは、聡明でい美しいパドメに憧れ続けることになった。青年ジェダイとなったアナキンは、パドメと再会したことを喜んだ。
パドメは、アナキンと性格がよく似た果断で大胆な美女で、やがてアナキンと恋に落ちる。2人は密かに結婚したが、そのことを周囲に秘密にしていた。
さて、銀河連邦共和政レジームはいよいよ崩壊の兆しを見せ始め、銀河系のあちらこちらで反乱や小競り合い、戦闘が頻発するようになっていた。アナキンは厳しい戦線に配置されて闘い続けて輝かしい戦果をあげていく。
功績目覚ましいアナキンではあったが、ジェダイ評議会での処遇や評価は若輩者であるがゆえにアンビヴァレントだった。ジェダイ評議会や元老院での利害対立や派閥闘争にともなう駆け引きも影響していたのだろう。そのことにアナキンは苛立っていった。
純粋すぎるアナキンは、やがてジェダイ評議会や元老院の政治駆け引きにうんざりし始めた。その心のすきを突いた暗黒卿シディアス――巧妙に立ち回って元老院議長に選出されて強大な権限をもつようになっていた――は、アナキンをダークサイドに誘い込んでいった。
女王パドメとの秘密の結婚、銀河共和政の煩雑な政治機構への苛立ち、そしてパドメの死期が迫っていることへの絶望感などで、アナキンは自暴自棄になっていた。そのとき、死期が迫っているパドメの命を長らえさせるというシディアスの甘言に乗って、ジェダイの敵となって聖堂の訓練生を皆殺しにしてしまった。
何やらシェイクスピアの悲劇のドロドロの物語に似てきたではないか。