ある日の夕方、ヴィトゥスは母親のヘレンから、今夜はヘレンとレオが管弦楽団の演奏会に行くので、ベイビーシッターとしてイザベルが来る、と告げられた。イザベルは11歳になる(近所の知り合いの)娘だ。
「ぼくはもうベイビーではない」と生意気盛りのヴィトゥスが言うと、 「それなら、あなたのガールフレンド(フロインディン Freundin :女性の恋人)が来てくれると思えばいいんじゃない。とにかく、その子に面倒を見てもらうのよ」という返答。
母子がそんな風なことを話し合っている最中に、イザベルがやってきた。
イザベルは、ヴィトゥスが生まれたときから彼をかわいがってくれた少女だったが、最近は会っていなかった。イザベルは可愛い少女だった。ヴィトゥスが異性を意識して女性を好きになる年頃になってからは、はじめてイザベルと会うことになった。
ヴィトゥスは母親から「恋人だと思えば」なんて暗示をかけられていたせいもあったせいか、一目でイザベルが気に入ってしまった。でも、照れくさい気分で、つっけんどんな態度をとってしまった。ヴィトゥスとしては、はじめて女の子を好きなる経験だったせいで、どういう態度をとるべきか迷ったのだろう。ヴィトゥスは自分の寝室に行ってしまった。ベッドで本を読み始めた。
イザベルはヴィトゥスの寝室に入っていいかと尋ねた。
「静かにしていてくれるのならいいよ」と答えた。
イザベルはベッドで本を読むヴィトゥスの傍らの椅子に腰かけた。
ヴィトゥスは歓迎のつもりで、お気に入りの小さなコウモリの縫いぐるみをイザベルに手渡した。母からもらっったもので、枕元の壁に飾っていた。
「あら、このコウモリ、私がつくったのよ」とイザベル。
ヴィトゥスは、自分の大のお気に入りのコウモリがイザベルの作品だと知って、すっかり嬉しくなった。
ヴィトゥスは今のピアノのところに行って、楽曲を演奏してあげることにした。
ところが、思春期に入っている「普通の」現代っ子であるイザベルはクラシックのピアノ曲よりもロックミュージックが好きだと言った。
そこで、ヴィトゥスは、イザベルといっしょにロック・テイストのスウィングを入れた曲を即興でつくってしまった。やがて、2人はすっかり乗りのりになってロックコンサートを始めた。イザベルは冗談半分に、この曲で「スパイスガールズ」というロックグループでデビュウすると嘯きながら、モップをマイクロフォン代わりに、踊りながら歌いまくった。
部屋中の小物が散らかされまくった。
ヴィトゥスとイザベルはすっかり夢中になっていたので、時間の経過を忘れてしまった。
大騒ぎをしているところにレオとヘレンが帰宅した。ヘレンは、部屋のなかの剣幕に驚いて、イザベルをたしなめて追い出してしまった。こんな形でイザベルと別れることになって、ヴィトゥスは大きな衝撃を受けたようだ。