ある日、シャノンを男が訪ねてきた。強引な男で、面会を断ったにもかかわらず、部屋に入り込んできたのだ。来訪の目的は、仕事の依頼だった。
その男の肩書きは、国際的に鉱山開発・金属工業を展開する巨大企業グループの投資顧問(コンサルタント)で、これから進出しようとしている西アフリカの小国、ザンガロの国内情勢を調査してほしいという依頼だった。
とくに、クーデタや反乱による政権転覆の可能性を調べてほしいというのだ。
投資環境の情報を収集するという名目だが。いや、露骨に言えば、むしろ政権打倒のための条件を調査するということで、首都の状況や軍の配置の様子を観察するということだった。
以来には、実際のクーデタ実行にさいしては、シャノンのティームを傭兵団として高額で雇おうという含みもあったようだ。
その国は、ソ連の後押しを受けた独裁者、キンバ大統領が支配していた。軍隊を掌握して、力で住民を抑え込み、強権的な専制統治を敷いていた。
シャノンは、傭兵としての軍事活動をともなわない調査活動だけをおこなうという条件で依頼を引き受けた。
ここで登場する鉱山開発・金属工業を営む多国籍企業については、フォーサイスはたぶん、リオ・ティント&ジンクのような巨大企業を想定しているものであろう。
この会社は、レアメタルからウランなどの放射性重金属の世界的供給網を組織する寡占会社で、アメリカやブリテン、フランスにまたがる軍産複合体の枢要な一角をなしている。
たとえば、資源探査のためということで、軍事偵察衛星の利用を軍から認められていた。また、軍が必要とする金属資源の開発や供給を独占していたと言われている。
日本も含む先進諸国の原子力=核熱発電の開発・建設事業は、原料供給やリサイクル(核反応技術や精製・再処理など)では、こういう企業に全面依存している。
冷戦時代、アフリカなのでは不思議なことに、リオ・ティント&ジンクの資源開発などの利権にとって不利益な政策を打ち出す政権は、必ずといっていいほど、次つぎにクーデタで倒されたり、首脳が失脚したり暗殺されたりして、政権が変わった。
場合によっては、ソ連の関与を口実にしてCIAやアメリカ軍が直接に公然と介入した内戦や政変も頻発した。
それにしても、シャノンたちは、そういう世界的規模で権益や利権を拡張しようとする資本家的企業に雇われて、紛争や政変に引っ張り出されるという構図になっていた。
シャノン自身は、そういう事情をいやというほど知っていた。そして、戦場となった地の民衆がどれほど悲惨な生活を強いられているのかを。