戦争の犬たち 目次
多国籍企業とアフリカの悲劇
物語と状況設定
原題について
原作と原作者について
  著者の経歴と問題意識
  商売としての傭兵
死にゆく者と生まれ出る者
  孤高の傭兵
投資コンサルタント
ザンガロの悲劇
戦争屋稼業の孤独
憤りと決意
  利権争奪戦の背景
「援軍」との合流
戦闘と大統領府攻撃
  新大統領
作品が提起する問題
  重苦しい現実
  悲劇の複合的な原因
  アフリカの近代
  アフリカの分割
  列強の覇権争奪戦
  独立後の現実
  冷戦という足枷
  従属と貧困の再生産
  開発援助の実態
  冷戦と傭兵

◆独立後の現実◆

  さて、第2次世界戦争のあと、ことに1960年代からは、ヨーロッパ列強諸国家の植民地支配レジームが財政危機や政治危機、また民族(部族)解放闘争などによって、急速に崩壊し、アフリカ各地ではアフリカ人の手による「独立国家」が相次いで誕生していった。
  ただし、ほとんどの場合、国家の領土範囲は、列強諸国家の力関係や分割闘争の成り行きによってつくり上げられた国境線によって仕切られていた。
  国境の内部での部族や民族の構成や組み合わせは、列強諸国家の植民地統治の都合に合わせてでき上がったものだった。
  ゆえに、名目上、独立の主権国家ができ上がったとはいっても、多数の部族社会や民族のあいだの紐帯や連帯、親和性が、つまりは統一的な「国民」を形成する条件があるわけではなかった。

  むしろ、植民地統治の常として、域内の民衆を分断し敵対させる(特定部族の優遇やその逆の抑圧など)政策によって、国境内部の社会には亀裂や対立、紛争の原因がごろごろ転がっていた。
  植民地支配や長きにわたる収奪によって、国内経済や政府が管理できる財政資源は疲弊していた。つまりは、分配できる富はきわめて限られていた。
  理想に燃えて政権を握ったものの、限りある財政や資源の配分をめぐって、指導層は自分の出身部族や民族、階級・階層を優遇する政策をとりがちだった。
  言い換えれば、冷遇され、富や権力の配分から排除され、むしろ収奪の対象とされる部族集団・民族・階級が発生したのだ。
  かくして、独立を達成した国家の内部で、富と権力の分配(領有と排除)をめぐる闘争や紛争が発生していく。
  かくして、新たな対立と敵対の増幅の悪循環が始まる。

◆冷戦という足枷◆

  しかも、冷戦構造のまっただなかだった。
  国内の政派闘争が、イデオロギー上は「社会主義か自由資本主義」かの「幻想の体制選択」をめぐる戦争に発展していく場合も多かった。
  ソ連もアメリカも自陣営の優位のために、現地住民の利害はそっちのけにして、残酷な独裁者や危険な武装組織を支援した。切実な民衆の生活をめぐる政策は後回しにされ、国内の政策論争はイデオロギー上の空疎な論争にすり替えられることになった。

◆従属と貧困の再生産◆

  あるいは、独立後、国内で対立が表面化しなかったところでも、国家の指導者たち(政党)の多くは、「外貨獲得」とか多額の借款の早期の返済のために、世界市場で手っ取り早く販売できそうな農産物生産、あるいは鉱石、原油などの輸出産業を育成するために「モノカルチャー」「モノインダストリー」政策を推し進めた。
  国家の財政資金や資源、政策的援助をこうしたものに集中的に配分した。そして、その結果、民衆の生活を支える基礎食糧農産物とか消費財生産を犠牲にし、後回しにした。
  先進国の銀行や世界銀行などの援助もまた、融資条件として、そういう外貨獲得政策を誘導といううよりも強制した。それが「自由化」の内実だった。
  輸出用作物や石油・鉱物の世界市場は、欧米先進国の有力な多国籍資本によって寡占支配され、統制されていた。そして、好況と不況の激しい上下波を描く経済循環に支配されていた。
  つまりは、生産国を翻弄する世界市場価格の変動や買い叩きによって、アフリカ諸国の貿易収支はかえって悪化した。

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