傷だらけでニューヨークに戻ったシャノンは病院で治療を受けた。かかりつけの医師から、しょっちゅうひどい怪我をして、自分の身体を痛めつけるのが趣味なのか、と皮肉を言われた。
治療とリハビリには時間がかかった。
さて、シャノンは、あの横柄な投資コンサルタントにザンガロの悲惨な状況を報告した。そのさい、首都と大統領府の防衛隊を殲滅すれば、現政権を倒すことができると付け足した。
だが、そのクーデタ計画に傭兵として参加するのは拒否した。投資コンサルタントは巨額の報酬を提示したのだが。
ひどい傷害を負ったシャノンは、もう暴力に明け暮れる生活におさらばしたかったからだ。現地住民の悲惨な現状には目もくれず、ひたすら権益や利権の拡大をめざす先進国企業や政府の言いなりになって、命を削るのが虚しくなったのかもしれない。
ところが、傷が癒えるにつれて、シャノンは孤独を感じるようになった。ある日、別れたもとの妻に電話して会うことにした。彼女は父母の家に暮らしていた。元妻と久しぶりに会うと、心が癒されるようだった。
だが、妻の父親が出てきて、傭兵稼業を続けているシャノンをなじった。
妻を強引にシャノンから引き離したのは、傭兵稼業を忌み嫌う父親だった。
だが、彼女自身も、死と隣り合わせの暴力の世界にいるシャノンとの心の隔たりに深く傷ついていた。
無事に戻ってきても家庭に長くとどまることなく、シャノンは戦場ふたたびに行ってしまう。無事を祈りながら、夫が死ぬのではないか、負傷するのではないかと怯えて過ごす暮らしにもう耐えられなくなっていた。
シャノンは、傭兵はもう辞めるから、よりを戻そうと彼女に提案したが、彼女はシャノンの性格を知り抜いていた。平穏な家庭にとどまる人間ではないと。だから、復縁を拒絶した。
シャノンはふたたび癒されない孤独に立ち戻ることになった。
すると、ザンガロの独裁政権への強い憤りが再燃してくるのを感じた。いま、彼にはもはや失うものはなかった。
シャノンは、あの投資コンサルタントに電話して、クーデタ計画に参加すると伝えた。だが、シャノンは、あの投資コンサルタント(背後にいる多国籍資本)とは別の思惑をもって、キンバ大統領の打倒をもくろんでいた。
その企図が心のなかで明確な形を取るのは、コンサルタントがキンバの後釜に据えようとしている人物を紹介されてからのことだった。その人物は、亡命ザンガロ陸軍大佐で、シャロンに紹介されるや、こう言った。
「おれは金儲けがしたいんだ。ザンガロでの利権を多国籍企業に高く売りつけてね」
その男には、「口先だけの大義」としてすら、国の再建や民衆の悲惨さを解決しようという理想や目標がなかった。要するに、キンバと同じ冷酷な独裁者向きの人格と見識しかもち合わせていなかった。
要するに、今度はザンガロにアメリカ寄りの独裁軍事政権ができるだけという話なのだ。アメリカ(企業)もソ連も、自分たちの権力や権益になびく傀儡(操り人形)を求めているにすぎない。
高額の報酬目当てに雇われて戦闘に参加する傭兵には、戦いの背景に関する情報を与えられることはまずない。彼らもまた、企業や政府という権力組織に雇われて操られるチェスの駒にすぎないのだ。
だがシャノンは、彼らを金で言いなりにしようとする大企業にひと泡吹かせようと考え始めた。