物語のプロットでは、マサチュウセッツ州ボストン市にあるボストン記念病院は、医療財団法人が経営する巨大病院だ。合州国の医学をリードする総合病院で、ハーヴァード・メディカルスクール(医学系大学院)と提携(ご近所の大学だからか)しながら、医療全般はもとより、先端医療技術の研究開発にも取り組んでいる。
女性研修医スーザン・ウィーラーは、ハーヴァード・メディカルスクール修了後、この病院に常勤して、インターンシップ期間における専門医師としての基礎研修を積んでいるところ。
アメリカでは、研修医( rsident / medical residency )とは、大学での医学の基礎教育研究の課程を修了したのち、専門的な医療施設(研究機関も含む)に常勤しながら、自分の専門分野の知識や経験、技術を学ぶ制度( post-graduate system )。つまりは、実務キャリアの出発点となる。
アメリカやヨーロッパでは、大学の学部課程から専攻分野に分かれることはなく、まず医学者としての基礎的な教養、素養、医科学知識全般を学ぶ。まずはオールラウンドな学識や知識を身につけて、学位を授与される。この課程を修了後、専門医療機関や研究機関にインターン=研修医として勤務しながら、深い専門的な医学知識や医療技術を習得する。
レジデントには、中世以来の「住み込みの徒弟奉公人」という意味合いがある。
いってみれば、アリストテレス以来の自然学( physiology )の習得課程や専門分科の仕組みにしたがっているわけだ。まず包括的な基礎の学習。しかるのちに細分化された専門分野を、だ。何にでも対応できる全般的・基礎的な素養を習得してから、専門の得意分野を、である。
学部からいきなり専攻分野に分かれる日本の医科系大学教育課程とは、かなり容貌を異にする。日本では、基本的には学科に分かれたコースで学部(「基礎課程」)と「修士課程」が一体化して6年制の履修課程となっている。
欧米の医師養成システムは、底の深い、そして射程の広い、貴族的なヒューマニズム(人文主義)にもとづくエリートシステム、メリトクラシー(学歴主義、能力主義、業績主義が一体化したもの)の典型的なコースともいえる。
とはいえ、レジデントという言葉は、時代を300年くらいさかのぼれば、すでに指摘したように「親方工房の住み込み徒弟奉公人」という古めかしい趣にもなる。その時代には理髪師が外科医を兼ねていた。とにかく経験によって能力が形成される世界なのだ。