ある夜のワシントンDC。ターナーは今度の一連の策謀の首謀者、作戦部中東部長のアトウッドの邸宅に侵入した。ターナーは、拳銃を突きつけてアトウッドを問い詰めた。文学史協会に暗殺者を送り込んだのも、アトウッドだった。
ターナーがさらにアトウッドを問い詰めようとしたとき、あの暗殺者、ジョウバーが現れた。ジョウバーは、ターナーから拳銃を取り上げると、アトウッドに近づいた。アトウッドは、ジョウバーがターナーを抹殺し、自分を窮地から救出してくれると一安堵した。
ところが、ジョウバーが引き金を引く寸前に銃口を向けた先は、アトウッドのこめかみだった。
意外な成り行きに唖然とするターナー。
「最近、契約が変更されてね。その契約では、君は標的ではない。まあとにかく、ここを出ようじゃないか」とジョウバーは言った。そして、アトウッドの手に発射したばかりの拳銃を握らせた。CIAの内部監察の手が迫り、追い詰められて自殺、というストーリーを描くつもりのようだ。
アトウッド自身の手には、自分の頭を打ち抜いたとすれば残るはずの火薬硝煙反応は残らないが、ジョウバーが任務終了を連絡すれば、あとはCIAの始末屋(クリーナー)たちがしかるべき証拠をすべて用意して、事件に幕を引くのだろう。
外に出ると、ジョウバーはターナーに、この先どうするつもりだと尋ねた。CIA内部のスキャンダル(いくつ者殺人事件にまでつながった)を知ってしまった以上、常にCIAに命を脅かされ続けるだろう。だったら、ヨーロッパにでも渡って、ジョウバーと同じ業界にデビューしたらどうだ、と誘った。
読書だけで身につけたフィールドエイジェントのノウハウをここまで駆使できる才能資質は、フリーランスの暗殺者に向いているというのだ。
だが、ターナーはそんな仕事は堪えられないし、アメリカで生きていく、と言って断った。 「そうか、残念だ。では、十分気をつけることだな」と、ジョウバーはターナーの前途に立ち塞がるであろう厳しい運命を思った。そこで、ターナーに奪った拳銃を返した。
そして、「では、帰り道を送っていこう。うん、ニューヨークまでかね」といたわるように、ターナーを車に乗せた。
ニューヨークに戻ったターナー。しばらくして、CIAのヒギンズ次長に電話して、ニューヨークの繁華街で会うことにした。
やって来たヒギンズの背後には、CIA要員が乗ったリムジンが待ち構えていた。ヒギンズは車中で話そうと誘おうとしたのだろうが、ターナーは拳銃があると威嚇して、その車を走り去らせた。
車に乗れば、ジョウバーが示唆したように、拉致連行され、消されるか、あるいはCIA内部のしかるべき地位を与えられ、今回知った事実を一生秘密保持する宣誓をさせられるかだろう。
ターナーはいまや、CIAという組織に嫌悪感や疑惑を感じていたから、CIAでの地位の申し出を拒否するだろう。とすれば、あとは死しかない。ターナーは、それも避けたかった。
ヒギンズは、CIAの立場を説得しようとした。
アトウッド部長が検討した「ある産油国の政変」計画の立案やシミュレイション自体は、やはり国家から求められた任務だった。ただし、本部が関知していないことだから、違法だった、と。だが、もし実行に移されていたら成功しただろう、とも。そして、仮にそういう既成事実ができてしまったら、CIAと合州国国家は、その既成事実を土台に中東地域での戦略を構築していくだろう、と。
というのも、まさに現在の豊かさを享受しているアメリカ市民全体が、アメリカ国家に磐石の石油資源確保を求めているではないか、とヒギンズは言い切った。アメリカへの石油の安定した供給経路が少しでも毀損したら、アメリカ市民たちの糾弾と非難の向け先は、まさに連邦国家とCIAではないか、と。
だが、ターナーは、だからといってこんな違法行為が罷り通るのはおかしい、市民に知らせることなく、そんな戦略を検討し、発動するのは間違っている、と批判した。そして、今回の事件の真相を、新聞記者と編集者に話してきた、と告げた。
2人が今、歩いている街路の背後にあるのは、ニューヨークタイムズの本社だった。余韻を残したまま、物語は終わる。