この作品が制作されたのは、1970年代半ば。まさに世界市場での「石油ショック」、OPECの反乱が持続している最中だった。合州国はもちろん、世界の先進諸国にとって石油資源の供給経路の確保は、国家と「国民経済」の死活問題だった。そんな時代背景がある。
ゆえにその時代、中東の産油諸国の政治環境を組み換えたいという思いは、アメリカでも強かっただろう。
そんな状況から巧みに材料を引き出して、CIAという情報機関の内幕を描き出す着想はすばらしい。
さて、このような時代背景を考えるために、1970年代前半から半ばにかけてのアメリカと世界の動きについてざっと見てみよう。
第2次世界戦争の終了後、主戦場となったヨーロッパ大陸と日本の旧列強諸国家はいたるところに大きな破壊を受けていた。ブリテンも、もはやアメリカに抗して、過去の権益や権威の維持に回す余力は残っていなかった。せいぜい、合州国のサブパートナーでしかなくなった。
アメリカは、健全に稼動する生産体制と輸出能力、金融・財政能力、金の保有量(保有比率)、軍事力、国際的な発言力など、あらゆる面で圧倒的だった。当然のことながら、戦後の世界秩序の再編成・再構築でも圧倒的な発言力、影響力をおよぼした。
国際通貨基金IMFや世界銀行IBRD、関税貿易一般協定GATTの設立、国連UNの運営などはいうまでもない。ヨーロッパの復興計画としてのマーシャルプランも。
とにかく、戦争直後からおよそ10年かけて再構築された世界経済の構造、とりわけ先進諸国の経済成長は、軍事的な面でも政治的な面でも、経済的な面でも、アメリカの組織力を前提にしてのものだった。
それにしても、アメリカの世界的規模での権力は、ソ連側レジームの出現ということもあって、西ヨーロッパ諸国家と日本を経済的復興させ、さらに急速な成長を促して、パクスアメリカーナの同盟のメンバー(副官あるいは番犬)としてブロック統合させる方向ではたらいた。その間のいきさつは、省略する。
ほかの側面を度外視して言えば、こうしてできあがった構造は、ドル(資金)の世界市場循環とともに石油資源(エネルギー原材料)の世界市場循環を土台とするものになった。ここでは、映画のテーマにかかわって、石油資源について見ることにする。
要するに、1970年代には、従来のアメリカの世界ヘゲモニー装置がさまざまな危機にぶつかり、あれこれの試行錯誤・模索を経て、再編成されたのだ。その転換点が、1970年代半ばだった。