原題は Incognito で、本来は形容詞で「匿名、変名」「実像を隠した、変装した」という意味。ここでの意味は「変名、匿名作品のため作者不詳、識別不能な作品」ということで、「本当の作者が不明な作品」、そういうものとしてつくられた贋作ということだろうか。
1998年公開作品。
見どころ:
ウィットとプロットに富んだ〈洒落た映画〉を観たい人におススメ。とくに美術に興味がある人たちに。
主人公の贋作制作者は罠に陥れられ、殺人の冤罪を晴らすために必死になって「贋作」であることを証明しようとする。にもかかわらず、美術界や世間がニセモノを歴史上著名な画家の真作に仕立て上げていく皮肉な物語。
営利目的の商品取引きとしての美術品取引業界の構図を、洒落たタッチで描いた名画。
青年画家ハリー・ドノヴァンは、今日も「贋作」づくりに勤しんでいた。贋作と言っても、無名に近い画家のあまり話題にもならない絵画を模倣した作品だった。
ある日、有名な画商が彼のアトリエを訪れ、あろうことか、高額の報酬と引き換えに、レンブラントの未発見の名画を贋作してほしいと依頼した。いったんは断ったが、ヨーロッパ各地の美術館や資料館での調査研究の費用は使い放題という条件に目がくらんで、依頼を引き受けてしまった。
それが、破滅を招くかもしれない冒険の始まりだった。
ハリー・ドノヴァンは、レンブラントが描いた未発見の作品と言われている「ある男の肖像」を描こうと考えた。そのためにレンブラントの技法・作風、時代背景、絵画思想などを深く研究した。
肖像画制作に没頭したハリーは、自分の父親の面影を土台にして、渾身の傑作を描き上げた。
古いキャンバスや絵の具などを使って、古く見せる加工を施した「ある男の肖像」は、レンブラントのどの作品よりもレンブラントらしい作品になった。
画商は、その作品がエスパーニャ北部沿岸で発見されたように演出してヨーロッパの絵画マーケットに持ち込んだ。高名な絵画史の教授=鑑定家に見せたところ、鑑定家はレンブラントの「未発見の大作」だと太鼓判を押した。
だが、父親の肖像が悪辣な犯罪に利用されることに嫌気をおぼえ、公開競売にかける方針に反対したハリーは、絵を奪って逃げた。巨額の金が動く犯罪ゆえに殺人も起きた。
そのため、ハリーは殺人強盗の冤罪をかぶせられ、逃げ回たあげく、ついに補縛され裁判に引き出された。
ハリーは冤罪を晴らすために、作品が彼自身が描いた贋作であることを証明しようとするが、途中で断念してしまう。
ハリーの冤罪を晴らす道は潰えたかに見えた。ところが、犯罪一味のイアンの意想外な証言によって、無実が証明され、デイヴィスの殺人罪が発覚した。
レンブラントの名画の声望は高まり、オークションでは5千500万ポンド(約130億円)の高額がつけられ、イアンは「濡れ手で粟」の大儲け。だが、得意の絶頂のイアンを大きな落とし穴が待ち受けていた。
仕返しのためにハリーの放った1矢が、イアンの幸運をかっさらった。その結果、贋作名画には皮肉な運命が待ち構えていた。
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