クレイトンは、これはマフィアのピンテーロの仕業ではないかと考えた。そこで、レイチェルをつうじてブリルと面会させてくれと頼んだ。レイチェルは自分がブリルと会うため手はずを教えた。電話で会う手はずを取るのだ。
クレイトンはブリルの連絡先に何度も電話を入れた。ブリルが相手を見定めるために、何度も電話するようになっている。何度目かの電話のさい、ブリルはクレイトンのすぐ近くまで偵察にきて、クレイトンの様子を監視した。そして、クレイトンをあるビルに行くように指示した。
電話の通話内容とクレイトンの動きは、NSAの監視システムに捕捉されていた。彼らは、そのビルの周囲に人員を派遣、配置した。
クレイトンがビルに向かおうとすると、物陰で待ち構えていたブリルが現れ、銃突きつけながらそのビルのエレヴェイターに誘導した。NSAは、ビルの安全管理のためにエレヴェイターの作動をモニタリングするLANにも侵入して、エレヴェイターの動きを追った。
ブリルとプレイトンは屋上に出た。ブリルとしては、ひとまず屋内の監視システムから逃れるためだった。そして、クレイトンの時計や万年筆、靴底などに仕かけられた盗聴装置や発信装置を取り出して、ブリルを質問攻めにした。
「俺をおびき出そうとしたのか。これは、マフィアなんかがやるようなケチな追跡や脅しじゃない。これはNSA専用の追跡用発信装置だ。これは盗聴装置だ」
ところが、NSAの荒事要員たちはビルのエレヴェイターや非常階段から屋上に迫っていた。しかも、盗聴装置を外されたことから、ヘリコプターを飛ばしてビルの屋上に迫っていた。
もちろん、監視衛星の軌道は、地球の自転に合わせてたえず首都の上空に来るように操作されていた。衛星の高感度カメラは、ビルの屋上の状況を撮影していた(地上の物体を5分の1インチまで解像(解析)できるという)。
だが、ブリルは、衛星の監視装置の動きを知っていて、上空のカメラからは顔が撮影されない角度を保って行動していた。
ヘリが接近したのを見越して、ブリルは屋上から消えた。
1人残されたクレイトンは、迫り来るエイジェントから必死になって逃げ回った。しかし、居場所をつねに捕捉されているクレイトンの行き先に、銃を手にしたエイジェントたちは迫っていく。追い詰められたクレイトンは、ホテルのあるフロアで中国系の老夫婦の部屋にもぐり込み、服を脱いで下着だけになって(監視装置から逃れるため)窓から逃げ出した。
何とか路上に出たクレイトンは車道を逃げた。だが、(発信装置は取り去ったものの)彼の行動は、衛星やヘリ、路上の監視カメラ、追跡車両や人員などの装置によって、ほとんど全部把握されていた。彼は逃げる途次、ガウンをかっぱらって着た。
追い詰められたクレイトンは、ビルの倉庫に隠れ、火を起こして火災警報装置を作動させて、消防や警察を出動させた。こうなれば、隠密作戦を展開するNSAは身を隠すしかない。クレイトンは火による負傷者として救急車に乗せられ、病院に搬送されることになった。
救急車の位置と通信もNSAによって捕捉されていた。クレイトンは、救急車内で警官の銃を奪って、車を止めさせて逃げ出した。
クレイトンは地下トンネル(車道)に逃げ込んだ。すぐ後ろを追跡者の車が追って来る。彼は対向車線に入り込み、そしてトンネルの退避経路に逃げ込み、逃げ回りながら、ようやく地上に出ることができた。そして、間一髪で窮地を脱した。