デイ・アフター・トモロー 目次
気候変動の果てに
原題とあらすじ
見どころ
急激な温暖化
スーパーストーム
大嵐は大寒冷化の前兆
壊れゆく現代文明
襲い来る大寒波、…
バルモーラルの悲劇
氷雪に埋もれたニュウヨーク
合衆国、そして現代文明の滅亡
サヴァイヴァルの旅
文明構造の転換
温暖化の主要原因は何か
核心的論題
熱交換システムとしての地球…
熱交換で地表を冷やす
気候変動と人類文明
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評  決

バルモーラルの悲劇

  さて、ブリテン島に襲来した大寒波はスコットランドの大半に大雪をもたらした。慣例通り晩夏から秋にかけてバルモーラル王宮に滞在していた王室家族は、王室のプライヴァシーを尊重しすぎた宮内府が避難勧告などの対策を遅らせてしまったため、危険な氷雪に閉じ込められてしまった。
  そこで陸軍特殊空挺部隊がヘリ隊を仕立てて救出に向かった。
  ヘドランドの気象センターでこの出来事のニュウズを知ったラプスンは、この救出作戦はきわめて危ういと判断した。というのは、大寒波を呼び込んでいる低気圧の目=中心がスコットランド上空に達していて、バルモーラル地方はこの目のなかに入ってしまったからだ。

  何と、この「寒波の目」の気温は零下100℃を下回っていた。
  ところが、空挺部隊のヘリの潤滑油はせいぜい零下60℃くらいまでに耐える性能しかない。今度の寒波の目のような超低温状態は、南極大陸の内陸部でもありあないほどのものだった。したがって、当然、そのような超低温に備えることを想定していない。
  もっとも、高速で回転するヘリコプターのエンジンは、ガソリンをシリンダー内部で爆発させてエネルギーを生み出しているから、エンジンの周囲は数百度に達しているし、ローターの回転による摩擦熱もすさまじい――だから、おそらく南極でも零下60℃までの耐性で十分なのかもしれない。
  だが、吸気ターボに吸入される大気の温度が−100℃となると、どれだけ暖気チャージしても、数分後には気化ガソリンの高温燃焼を大きく阻害することになる。出力が低下し、機体の温度が著しく低下する。しかも、低温化で大気の密度は2倍以上になって、回転翼の動きを鈍らせ、エンジンの回転を抑え込むことになる。こうして、やがてエンジンは停止する。

  というわけで、ヘリ隊はエンジン停止に見舞われて不時着することになった。
  さいわい雪が分厚く積もっていたので、ヘリの墜落に近いような着地の衝撃がうまく分散吸収された。だが、空挺隊員たちがヘリの窓を開けて脱出を試みた瞬間、手足や顔が凍りついてしまった。
  こうして、空挺部隊は全員遭難死亡。バルモーラルの王室家族も、おそらく全員凍死しただろう。ブリテンの文明と国家レジームの象徴が死滅した。
  もちろん、イングランド王室の滅亡を示す映像はない。だが、高度な訓練を受けて優れた装備をもつ空挺部隊でさえ、全滅したのだ。王室の滅亡は明白に暗示されている。
  映画の物語で、イングランド王室の滅亡をここまで明白に示した作品は、ほかにあるのだろうか。

氷雪に埋もれたニュウヨーク

  ニュウヨークは高潮にのまれた状態のまま、大寒波を迎えることになった。
  気温は一挙に数十度低下して、大都市のビル群の低層部を覆い尽くした海水は急速に凍結し始めた。分厚い積乱雲からは大粒の雪がやむことなく落下し続けた。
  というわけで、ニュウヨークは厚さ十数メートルの氷床に覆われることになった。

  その頃、公立図書館では、ローラが発熱で倒れてしまった。症状から見て敗血症のようだ。一刻も早く治療薬と抗生物質を投与しないと、生命が危うい。サムとブライアン、JDたちは、高潮がニュウヨークの市街地に(目の前に)運んで来た大型タンカーの医務室に医薬品を取りに行くことにした。
  話が冒険に都合よくできている。
  だが、少年たちの医薬品探しは、崩壊した動物園から逃げ出した狼の群を相手にした大冒険になってしまった。とにかく、サムたちは医薬品をローラのもとに持ち帰ることができた。
  だが、寒波はひどくなっていった。

  ところで、寒波襲来の前に、サムは水没した1階の有線電話で、ワシントンの父母と最後の連絡を取ることができた。その会話のなかで父親ジャックは、サムに警告を発した。
  「このあとに恐ろしい寒波が襲来するはずだ。猛吹雪が襲いかかるだろう。そして、嵐の目がやって来る。そのとき猛吹雪はやんで、一見静穏な気象状態になるが、まもなく氷点下数十度以下の猛寒気が訪れることになる。
  だから、室内の安全なところに閉じこもって何とか暖をとるようにするんだ。
  吹雪がおさまったからということで、建物の外に出てはいけない。しばらくすれば、人を短時間で凍死させる超寒気が襲ってくるからだ」
  ジャックはサムに、図書館にとどまり寒波に耐え続けるように警告した。そして、必ず救出に向かうと約束した。

  しかし、猛吹雪の後に「嵐の目」がやって来ると、空は晴れ渡った。図書館に避難した人びとの多数は、吹雪がおさまった今のうちに南に向けて移動しようと考えた。
  サムたちは、ジャックの警告を伝えて、外出を思いとどまらせようとした。が、圧倒的多数の人びとは、サムたちの説得に耳を貸さずに、ニュウヨーク市警の警察官をリーダーとして南への逃避行を開始した。
  結局、少数の者たちが、図書館にとどまることになった。

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