デイ・アフター・トモロー 目次
気候変動の果てに
原題とあらすじ
見どころ
急激な温暖化
スーパーストーム
大嵐は大寒冷化の前兆
壊れゆく現代文明
襲い来る大寒波、…
バルモーラルの悲劇
氷雪に埋もれたニュウヨーク
合衆国、そして現代文明の滅亡
サヴァイヴァルの旅
文明構造の転換
温暖化の主要原因は何か
核心的論題
熱交換システムとしての地球…
熱交換で地表を冷やす
気候変動と人類文明
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炎のランナー
医療サスペンス
コーマ
評  決

合衆国、そして現代文明の滅亡

  恐ろしい寒波は合衆国のあらゆる大都市に襲いかかった。サンフランシスコ、シカゴ、ニュウヨーク、フィラデルフィアなどが氷雪の下に埋もれていった。ブリザードはワシントンDCに迫っていた。
  大統領府は、首都ワシントンDCから避難してメクシコシティに移転する計画を実行に移した。とりあえずはメクシコシティの合衆国大使館に大統領府を移転させることにした。つまり、首都を放棄することになった。
  これまでは、豊かな北アメリカにチャンスを求めて「南からの民衆」が合衆国とメクシコとの国境をこっそり北に向けて突破していた。ところが、立場は完全に逆転した。氷雪に追われて生き延びようとする「北アメリカの民衆」が国境の南側に逃れようともがいていた。
  アメリカ・メクシコ国境をめぐる人びとの動きが逆転した。このあたりの描き方は、現在、ラテンアメリカからの不法移民を必死になって防ごうとしている合衆国政府側の姿を揶揄していて、皮肉を込めた現代文明批判で痛快だ。状況が変われば、アメリカ人が南方に救済と移住先を乞うことになるというわけだ。

  ワシントンの人びとは、政府が組織した避難民輸送経路をつうじて、続々メクシコに脱出していった。NOAAの研究スタッフもまたアメリカ・メクシコ国境の南側に拠点を移した。ジャックもそうした研究集団のなかに含まれていた。
  だが、彼はニュウヨークに取り残されているサムと仲間たちの捜索・救出に向けて準備に追われていた。

  ところで、ジャックの妻ルーシイはワシントンの国立医療センターの医師だったが、彼女は、脳腫瘍の少年、ピーターを見守るために首都に残っていた。ピーターを避難させるためには特別の救急車が必要だったが、救命士や消防士たちがわれ先にと南に避難してしまって、ピーターを移動させることができなくなってしまったからだ。
  だから、医療センターの同僚たちが避難するのを横目に、死を覚悟でピーターに付き添う覚悟を決めていたのだ。
  やがて、センターの病棟からは、彼女とピーターを除いて誰もいなくなってしまった。
  ところが、真夜中過ぎになって、北からやって来た救急隊が病棟に訪れた。彼らは、避難のしんがりとなって、取り残された患者などの避難を支援しようと活動していた。
  というわけで、ルーシイとピーターはメクシコへ避難することができた。

  北アメリカでは、北緯30度以北の地域全体が寒波に襲われ氷雪におおわれてしまったために従来のような文明形態を維持できなくなった。
  ところで、北緯30度にあるのはどのような都市だろうか。テクサス州ヒューストン、ルイジアナ州ニュウオーリーンズが、ほぼ北緯30度にある都市だ。つまりは合衆国の最南端の諸都市だといっていい。これらよりも南にある有力都市といえば、フロリダ州タンパ、マイアミくらいのものだ。要するに、合衆国の大都市は全滅したわけだ。
  あの温暖なロスアンジェルスでさえ北緯35度。
  ということは、ニュウヨークやシカゴ、フィラデルフィア、ワシントン、ロスなどを頂点=中枢として編成された現代資本主義の社会的分業=政治経済的再生産体系が機能麻痺し崩壊したということになる。

  このような気候帯変動が全地球的規模で同じように起きたとすると、どうだろうか。
  ヨーロッパで北緯30度というと、地中海全域がそれよりもずっと北にある。北緯30度というと、何とエジプトのカイロよりも南なのである。北アフリカのチュニジアやアルジェも北緯30度よりもずっと北に位置する。
  ということは、ヨーロッパ文明は全滅どころの騒ぎではない。サハラ砂漠と地中海が寒波の南下を抑制する働きをしたとしても、瀕死状態で文明が生き残れるかもしれないのは南フランス(それでも北緯45度)やエスパーニャ・ポルトゥガル南部、イタリアでは半島の南端とシチリアくらいのものか。

  そのほか、中央ユーラシアではカスピ海の南端近くが北緯30度にある。内陸部では寒波はことのほか厳しくなり氷河がずっと南進するだろう。そうすると、イランのテヘランも危うい。中国でいえば、武漢と上海がかろうじて生き残るか。
  日本では、沖縄列島以外の区域は全滅するだろう。海洋性気候だから甘く見てもだ――海洋の寒冷化が厳しいので、さらに悲惨な結果になるかもしれないが。
  その半年後に南半球の冬が到来すると、そこでも温帯性気候帯にある諸都市は全滅するだろう。
  そうなると、産業や人口の集積度から見て、メトロポリス機能を維持できそうな有力都市は、インドのニュウデリーやデリー、メクシコシティ、ブラジルのブラジリアやサンパウロ、リオデジャネイロ、タイのバンコク、シンガポールなどに限られる。
  してみれば、北アメリカと西ヨーロッパを中心とする地球環境・資源の資本主義的収奪のシステム、すなわち世界分業体系の頂部を占める有力諸都市はほとんど全滅し、世界を支配する金融システムの中枢もまた死滅するだろう。

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