地球というシステムは、太陽の電磁波・熱放射の影響下にありながら、相対的にまとまったひとつの巨大な熱交換システムをなしている。
まず地殻の内部でのマントル対流とプレイトテクトニクス。これも、熱力学・運動エネルギーという観点で見れば、高温で溶解した岩石の熱対流という熱交換システムによって生起している事象である。
それゆえ、火山活動や造山運動、地殻変動なども、地球という熱交換システムの位相なのである。
次に気候現象という点で見ると、太陽からの熱輻射を起動因とする、大地=岩石の吸熱・蓄熱・熱放出、大気循環、海流などの事象もまた、熱交換システムの位相である。
熱交換とは、ある物質から別の物質への熱エネルギーの移動であり、力学的エネルギーの発現形態の転換である。たとえば、火を焚いて鍋の水を温めて湯をつくるという活動も、燃料の燃焼によって生み出された熱が水に移動する熱交換の現象である。
水が液体から固体=氷になる凝固、あるいは液体から気体になる気化・沸騰、逆に気体から液体になる凝結という変化もまた、水と外界との熱交換による存在状態の変化である。一定の圧力環境のもとでは、水は自らがもつ熱量によって存在の形態を変えるのだ。
暖房・加熱や冷房、冷却・冷凍などの動きもまた、熱交換システム――物体間の熱エネルギーの移動・変換――を利用したメカニズムである。温水や冷媒などのような、ある循環システムのなかで熱エネルギーを運搬する媒質が、熱源から受けた熱エネルギーを対象物質に与えれば暖房・加熱になり、熱エネルギーを奪い取れば冷房や冷却になる。
人為的な加熱や冷却は、結局のところ、外界=環境への熱の放出・排出を帰結する。その意味では、人類が文明装置を利用すれば、必ず外界への熱排出がもたらされてしまう。
人間だけではなく、一般にあらゆる生物の生存活動は、地球の熱変動、熱交換システムの構成要素となっていて、熱の移動や熱による物質の状態変化に関与している。
というのも、生物という存在は、外界と生物個体との物質=エネルギー代謝(交換)システムなのであって、この代謝=交換システムには熱エネルギーの生産や消費、転換などが含まれるからだ。
ただし、生命体は熱の生産・蓄積などにともなうエントロピーを極限まで小さくする巧妙なシステムを備えている。というのも、細胞・器官という形態での生命活動は、熱の生産や蓄積にともなうエントロピーによって生命活動をおこなうメカニズム・秩序がどんどん撹乱・破壊されていく。その意味では、生命とは物質代謝にともなうエントロピーを一定期間――寿命と呼ばれる――極力小さくするメカニズムだともいえるだろう。
先カンブリア紀から現在までに生まれ生長し死滅した、あらゆる生物種の個体の質量を総計(推計)すると、地球全体の質量の何倍にもなるという。土や水から生物の個体内に取り込まれ、凝縮し、排泄される過程が繰り返され、さらにその個体の死滅によってふたたび外界に排出される物質――ひとつの個体、ひとつの種、ひとつの世代ごとにごく小さな量だが――、これまでのあらゆる生物種の数百万世代、数億世代にわたる生物種の新陳代謝の総量は、そのくらいすごい。
つまり地球上では、これまでに地球の表層環境を何度も劇的に変動転換できるほどの物質とエネルギーのやり取りがあったということだ。
だが、ほかの生物の活動は、人間が動かす文明装置のようなものをともなわない生存活動だったので、地球という熱交換システムの仕組みを撹乱するほどにはならないようだ。とはいえ、シアノバクテリアの活動は地球の環境を変えたし、植物=葉緑体の光合成によって、地球の大気組成が変動したこともある。
以上に見たような地球内部の構造からはじまって大気の運動構造、地表の生物の活動という多様な熱交換システムの構成要素の相互作用によって、微々たる変化が積み重なって、数万年以上のタイムスケイルでは、全地球が凍結するような寒冷化が起きたり、異常な温暖化が起きたりする。