嵐の夜、ある若い男が地中海沿岸の村の砂浜に打ち上げられた。その男は村人によって医者のもとに運び込まれ、手術の結果、命を取りとめた。だが、自分の名前も含めて過去の記憶をすっかり失っていた。
ところが、男が携帯していた身分証の名前「ジェイスン・ボーン」に関して問い合わせた途端、暗殺者がやって来た。何とか生き延びた男は、自分が何者だったのかを知るために、ヨーロッパの主要諸都市を訪ねて回ることにした。
すると、いたるところで彼をねらう暗殺者たちに襲われることになった。しかも、ボーンはCIAからもねらわれていた。彼は、たまたま知り合った若い女性経済学者マリーとともに、自分の過去を探る「逃避行」の旅に出た。
やがて、ボーンの正体はウェブというアメリカの諜報員で、ジェイスン・ボーンという虚構の暗殺者に扮してジャッカルという暗殺者を探索・排除する任務についていることが判明した。ジャッカルとは、カルロスという名の暗殺者のコードネイムで、カルロスは国際的な暗殺組織を動かし、CIAにも浸透していた。
ボーンはマリーとともにパリに行き、ふたたびカルロスの手先の襲撃者たちと対決する。
一方、ニューヨークでは、ボーンに扮したウェブの今回の任務を支援する組織「トレッドストーン」のメンバーが緊急に集まった。ボーン=ウェブをめぐる事態が混乱し深刻な局面になったからだ。だが、メンバーにはカルロスと結託した裏切り者がいて、ボーン=ウェブの抹殺を謀っていた。ボーンは二重、三重の謀略と罠に包囲されてしまった。
もとより、ラドラム小説の映画化作品ということであれば、88年版の方が好ましい。映像作品そのものとしての評価は別として。
この映画作品を理解するためには、作品のなかで、CIAが仕立て上げた虚構の人物にして、かつまた実在の主人公、ジェイスン・ボーンとは何者なのかを、ざっと説明しておかなければならない。
とはいえ、なにしろ20年以上前に読んだ小説なので、私の記憶もかなり風化している。ごく大雑把にしか語れない。
そのさい、1970年代末という時代、歴史状況を想起してほしい。まだソ連レジームは内部に腐食と動揺をはらみつつも「健在」で、アメリカは冷戦戦略を展開していた。ただし、ソ連側にはレジーム内部の危機もあって「デタント」、つまり東西のレジームどうしの歩み寄りと妥協が顕著になった時期でもあった。
さて、なにゆえにジェイムズ・ボーンなる人物が、CIAによって、国際的なパウワーゲイムの舞台に登壇させられなければならなかったのか?
それは、ジャッカル=カルロスというスーパーA級の暗殺専門テロリストへの対抗のためだった。