ボーン・アイデンティティ 目次
CIAの暴走
原題と原作について
あらすじ
長く複雑な物語シリーズ
ボーンとは何者なのか
テロリスト・ジャッカル
虚構の人物
漂 着 者
手がかりへの細い糸
ツューリヒで
逃亡、そして潜伏
パリでの攻防
トレッドストーン
ボーンの反撃準備
トレッドストーンの崩壊
ニューヨークでの対決
事 後 談
謀略と暴力のアリーナ 国際政治
ポスト冷戦の時代
理想なき現実の時代

テロリスト・ジャッカル

  ときは冷戦時代にさかのぼる。
 ジャッカルというコードネイムのテロリストは、もともとはソ連のKGBがつくり上げた暗殺専門の万能エイジェントだった。飛び抜けた知能と運動能力、反射神経。彼はたちまち多数のエイジェントのなかでもトップクラスの能力をもつと評価されるようになった。ソ連流のマルクシズムと「革命思想」をも身につけた。
 だが、初期のいくつかの任務遂行をつうじて、彼は平然と組織の統制や管理を超越・逸脱する傾向が強いことが示された。精神の構造がある意味では飛び抜けていて、きわめて自己中心的であって、あらゆる規律や規範、価値観の上に自分を置きがちであることが判明した。そして、精神的な異常性向、異常な残虐性、過剰な破壊・殺人欲求の持ち主であることが明らかになった。
 それは、ソ連当局の統制能力をはるかに超える存在になった。KGBにとっては排除すべき危険分子、攪乱要因になったのだ。そこで、KGBから追われ、そして国内からも追放され、ときにはKGBやGRUによって命を狙われるようになった。だが、ジャッカルは、自分を狙うソ連の工作員をことごとく返り討ちにした。

 ジャッカル(カルロス)自身としては、その後も革命思想を熱心に信奉し続けていた。ただし、独特のアレインジを加えて。彼から見れば、むしろソ連国家が堕落し変節したのだ。ジャッカルは、もはやソ連当局やKGBが支援しなくなった各地の「革命運動」や「左翼ゲリラ」の破壊活動やテロルに積極的に関与していった。とはいえ、きわめて高い報酬と引き換えに暗殺テロルをおこなったのだが。
 そうなると、ソ連当局から見ると、その国際戦略を妨害する人物となり、必ず抹殺すべき危険分子となった。
 その危険度は、アメリカを中心とする西側陣営にとっても、同じかそれ以上だった。


 やがて、カルロスは、生来の残虐性や自己顕示欲にかられて、依頼主の政治的立場にかかわらず、高額の報酬のために、世界中で殺戮や破壊を仕かけるようになった。最高の暗殺者=テロリストとしての名声を獲得することが目的であるかのように。それが、彼のねじれた精神世界では、革命の理想を追求する活動と位置づけられていた。
 そして、手許に蓄えた巨額の資金を背景にして、世界各地に自分の情報工作=スパイ活動の組織とそのネットワーク――テロ専門の国際的傭兵団――を組織していった。
 それは、アメリカの覇権と戦略にとっても大きな脅威となった。つまり、CIAにとっても、きわめて危険な敵対者となった。そこで、ジャッカルをおびき出して排除する作戦が立案されることになった。
 それが、ジャッカルを超える能力と実績をもつ、残忍で狡猾な暗殺者、ジェイスン・ボーンなる人物を仕立て上げ、ジャッカルが挑戦を仕かけように仕向ける作戦だった。

 この作戦の主人公に抜擢されたのが、デイヴィッド・ウェブという有能な軍人あがりの工作員だった。彼は、自ら志願して、危険な暗殺者になるべく、世界最先端の精神医学テクノロジーによる人格改造――別の人格を植えつけて、任務中はその人格だけが意識の表層に出るようにする訓練――の「人体実験」を受けた。
 人工的に多重人格の心理・行動様式を植えつけたわけだ。
 だが、この実験は、まだ合衆国政府やCIA首脳部の了承を得ていない、リスクの高いものだった。だが、当時の作戦部長――やがてCIA長官になる――が、自己の権力闘争に利する形で、遂行を決めたのだった。

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