ボーンがツューリヒのゲマインシャフト銀行からパリのヴァロワ銀行に大金を送金したことは、銀行内部の手先をつうじてカルロスの情報網に察知されていた。カルロス側は、パリに分厚い包囲網を組織し、ヴァロア銀行にも罠を仕かけて待ち伏せていた。
ボーンとマリーは作戦を検討し、マリーがヴァロア銀行に赴いて送金した資金の引き出し手続きをすることにした。2人とも、周囲には襲撃者たちの罠が待ち構えていることを覚悟していた。丈長で襟の深い外套と帽子で顔を隠したマリーは、ヴァロワ銀行に入ってから、電話コーナーに行って、銀行と通りをはさんで向かい側の公衆電話ボックスで監視するボーンに連絡を入れた。
銀行の内部と周囲の様子をうかがって、安全であろうと判断したマリーは、預金口座マニジャーの部屋に向かった。ところが、そこに、ツューリヒでマリーを殺そうとした大男が急ぎ足でやって来て、マニージャー室に入っていった。マリーは恐怖で足がすくみ、とっさに落し物を捜す振りをしてしゃがみこんだ。
そうして何とかやり過ごしてから、急いで電話コーナーに戻り、ボーンと連絡を取った。ボーンはマリーに、恐怖を抑えてしばらくその場を動かずにいるように告げた。そして、銀行に「急用ができたので、ただちに空路ロンドンに向かうので、銀行には行かない」と告げた。
すると、大男はマニジャー室から飛び出し、銀行の玄関横に停めていたベンツに飛び乗ると、運転手に空港に急行するように命じた。車は走り去った。
ボーンとマリーは夕方近くまで、カフェで時間をつぶし、勤務を終えて銀行を出るマニジャーのダルマクールを待ち構えていた。ボーンは帰路に着いたダルマクールを捕まえて、威嚇して、今回の罠に関する情報を引き出した。
ダルマクールによれば、ボーンは犯罪者で、銀行に現れたらあの大男に連絡して逮捕する手はずになっていたという。その罠に協力することで、多額の報酬を受け取ることになっていたが、カルロスについては知らないという。
ボーン包囲網はじつに巧みに張りめぐらされているらしい。2人は対策を練り直すことにした。