カルロス追撃の任務についての記憶をわずかに取り戻したウェブ=ボーンは、ダルマクールへの連絡に使われていた電話番号がパリの目抜き通りにある高級洋品ブティクの支配人室のものであることを突き止めた。そこが、パリでのカルロスの連絡拠点になっているのだ。ボーンは大金持ちのプレイボウイの振りをして、そのブティクに乗り込んだ。
そこで、高級なドレスを何着も買い込み、さらに巨額の継続取引きを匂わせて(商談絡みで)、ボーンは支配人の女性に近づいた。そして、セーヌ河観光船上のレストランでのランチに誘い出した。船上からセーヌの両岸の風景を楽しむ、豪華なランチだったが、テイブルを挟んで交わされた会話の内容は、きわめて殺伐としたものだった。
ボーンは彼女から、カルロスとボーンのかかわりについて質問していたのだ。
何しろ記憶を失っているボーンなのだ。女支配人は、それが自分たちの敵、ボーンだとは思わなかった。だから、カルロスとボーンとの対決の構図を語った。
彼女の話によれば、ボーンはインドシナあたりで頭角を現した殺し屋で、名うての悪党だった。きわめて狡猾かつ残忍で、闇の世界のルートで各国の要人暗殺を引き受けて、片端から残酷な殺戮の標的にしていったという。暗殺者としてまたたくまにカルロスに迫るほどの地位と名声を得ていった。
そして、ついにカルロスに挑戦状を叩きつけてきた。ボーンがカルロスの本拠、パリに乗り込んでくるのはもはや時間の問題だ。
だが、一度は、ボーンは地中海でカルロスの仲間に抹殺されて海の藻屑となっていたはずだった。ところが、ボーンはふたたびパリに出現しようとしているのだという。
ところで、ボーンがヴァロワ銀行訪問を取りやめて、空路ロンドンに向かうというプロットの陽動作戦に協力したマリーの上司、ピーターは空港で、カルロスの手先の大男の襲撃で殺されてしまっていた。それを知ったマリーは、カルロスの手先の殺し屋たちがうろついているパリの街中に飛び出していってしまった。
ボーンは、どうにか無事にマリーを確保して、話し合い、結局、彼女はカナダ大使館に保護を求めることにした。
ところが、マリーが大使館に入ると、書記官は、凶悪な殺人犯=殺し屋ボーンについての情報を彼女から強引に聞き出そうとした。どうやら、ヨーロッパの公的機関ではどこでも、ボーンは最近の一連の要人暗殺の容疑者は、カルロスと手を組んだボーンだということになっているらしい。
マリーは、書記官が領事を呼びにいった隙をついて、大使館から逃げ出すことにした。ボーンを支援するのは自分しかいないという健気な思いを抱いて。
ところが、あのブティクの女性支配人はボーンと接触したことで裏切り者として殺されてしまった。この「処刑」のために、カルロスの命令を受けて、支配人をパリの聖堂に連れて行ったのは、アンジェリクという美女だった。彼女は今、フランス軍のヴィリエ将軍の妻となっていた。ヴィリエ将軍は、フランス軍の核を中心とする兵器開発の指導者だった。ゆえに、フランス軍の兵器開発などの機密は、アンジェリクをつうじてカルロスに漏れていたのだ。
ヴィリエ家をつうじて軍や政府の情報がカルロスに漏洩している事実をつかんだボーンとマリーは、ヴィリエ将軍を拉致して、真相を確かめようとした。ボーンは、将軍自身が裏切り者か、さもなくば将軍の邸宅の内部にカルロスへの内通者がいるはずだと迫った。
いくつかの証拠を調べていくと、将軍の若妻がカルロスのスパイであることが判明した。「こんな老人の後妻に若い美女が来るなんて、やはり裏があったか」と将軍は愕然とし、憤った。そして妻を殺そうと息巻いた。が、ボーンは、アンジェリクをつうじてカルロスに虚偽の情報を流して、陽動作戦を展開しようとして、将軍を宥めた。
女性支配人の殺害を知ったボーンは、アンジェリクを泳がせてカルロスがパリの聖堂に潜んでいることを探り出し、単身で襲撃を企てた。だが、カルロスの側近たちの護衛に阻まれて、間一髪、カルロスを逃してしまった。
さて、そんな騒ぎの最中、ヴィリエ将軍はやはり怒りを抑え切れず、妻のアンジェリクを射殺してしようとしていた。彼女はカルロスの愛人だったのだ。ボーンが将軍の意図に気づいて、館に駆けつけたが間に合わなかった。これで、ボーンの作戦は頓挫してしまった。
だがボーンは、「将軍とカルロスの対決」という事態を避けるために、ボーンがアンジェリクを惨殺したように見せかけることにした。自己愛の塊であるカルロスは、愛人が殺されたなら、きわめて感情的になって自らボーンへの襲撃をおこなうだろう、と読んでのことだった。