他方、ニューヨークでは、今回のボーン=ウェブの任務(カルロスをおびき出して抹殺すること)を計画立案し、また支援するためのグループのメンバーが急遽集まっていた。状況の急展開と事態の深刻化に対処するためだ。
ヨーロッパに乗り込み、地中海のとある島でカルロスと対決する局面になって、ボーンが突如、ボーンが行方不明になってしまった。その後、主要国の要人の暗殺事件が続き、カルロスの暗躍が伝えられるようになったが、ボーンは消えたままだった。
ところが、フランスとスイスでボーンが要人暗殺の容疑者として警察公安の手配と追及を受ける羽目になった。そして、ツューリヒのトレッドストーンの秘密口座にボーンがアクセスして大金をパリに送金したという事実が判明したのだ。
あの口座は、今回のウェブの任務のために開設した資金供給ルートだったのだ。 トレッドストーンのメンバーは、混乱に陥り、なかにはボーンが裏切ってカルロス側に寝返ったようだと判断する者もいた。
トレッドストーンは、アメリカの国家的安全保障を危惧する軍、NSC、CIAなどの有力者たちが結成した、政府組織横断的な極秘団体だった。カルロス排除を企図した今回の作戦を企画立案して、自ら政府組織を横断する支援体制を組織しながら、CIA(ヨーロッパ局)を直接の実行組織としてデイヴィッド・ウェブを送り込んだのだ。
しかし、内部には裏切り者、そして別の思惑を抱く者もいたようだ。
ジレットはCIAの直属上司の指揮を受けながらも、カルロスと内通し、今回の作戦情報を漏らし、かつまたボーンを凶悪な暗殺者として葬る手はずを練っていた。また、コンクリン将軍は、ペンタゴンの上層部に巣食っている「闇の組織」の指示を受けて、ボーン抹殺を企んでいた。
ただし、これらの文脈の大半は、このドラマ作品では描かれていない。謀略が、単純に「カルロス側の陰謀・買収」という形で描かれているだけだ。
トレッドストーンのメンバーは、ボーンとのコンタクトを取るために、CIAヨーロッパ支局に出頭するようにという暗号メッセイジを(当初の打ち合わせどおりに新聞への広告記事として)送ったが、記憶を失ったボーンからは何の反応もなかった。これは、ボーンに幸いした。というのも、ジレットの息のかかったCIAヨーロッパ支局メンバーは、ボーン拘束・暗殺の罠を仕かけていたからだ。
世界中に闇の情報網と暗殺組織のネットワークを組織しているカルロスにとって、パリはこのネットワークの中核だった。フランの政府組織や警察、企業・財界人からマスメディアまで、カルロスが長い時間と巨額の資金をかけて扶植した「部下」や協力者が多数配置されていた。
ボーンのパリ潜入に即応して、またCIAの動き、パリ警察の動きなどを検討するために、カルロスの秘密組織も活発に動いていた。
その日も、薄汚れた服装の浮浪者然とした男が、パリの郊外のとある修道院にやって来た。そこの司祭がじつはカルロスだった。カルロスは、この連絡員=「浮浪者」を使って、パリでボーンを迎え撃つ態勢を整えようとしていた。
態勢は万全だったが、心の奥底では、カルロスはボーンに大きな脅威を感じていた。彼にこれほど正面から全面的な対決を挑んできたのは、ボーンがはじめてだった。
とはいえ、ボーン=ウェブはカルロスへの挑戦の任務とその戦術や仕かけについての記憶をほとんど失っているのだが。