こうして、ようやく会場に戻ると、オーケストラの演奏は一変していました。アンヌのヴァイオリンソロとオケの演奏とが美しく響き合っているではありませんか。
「ああ、神様は本当にいるのかもしれない。こんな奇蹟が起きるなんて!」
無神論者の彼は、変な感動をしていました。
この協奏曲の演奏場面が終幕なのですが、この場面にかぶせて、その後のサクセスストーリーが描かれます。
協奏曲の大成功は、フランスの国営放送に加えて、マフィアのボスの手配でロシア国営放送が東欧にも流したこともあって、大評判を呼びました。
世界のマスメディアもこぞって称賛しました。シャトレ劇場で1回だけの(穴埋めだけ)予定だった公演は、その何週間も続くことになりました。
偽の「ボルィショイ交響楽団」は、「アンドレイ・フィーリポフ交響楽団」と名を変えて、ベルリン、ヴィーン、イスタンブール、モスクヴァ、東京、シドニー、ニューヨーク、ブエノスアイレス、ロンドン…世界の一流劇場を回ったのです。
やがて。アンヌはモスクヴァのアンドレイとイリーナの家を訪れ、家族同然の親交を結びましだ。たぶん、両親について本当のことを聞いたに違いありません。
孤独だったアンヌには家族ができました。イリーナには、天才ヴァイオリニストの娘ができました。